2024年03月29日

道の駅鹿島の行列メニューで大注目! 6次化*を実現した「ななうら放牧牛」

ななうら放牧牛サイコロステーキ(画像提供:佐賀県鹿島市役所)

ムツゴロウなど珍しい海の生き物が生息する有明海が目前に広がる「道の駅鹿島」。6mという日本一の干満差があり「ラムサール条約湿地(※)」に登録された「肥前鹿島干潟」で開催される「ガタリンピック」の会場として知られ、泥だらけになって遊べる「干潟体験」や海上で特殊な網を使った漁ができる「棚じぶ体験」といったアクティビティーも楽しめる。干潟展望館、ミニ水族館、千菜市(せんじゃいち/直売所)、カキ小屋&BBQの食事処も備えた魅力満載の「道の駅鹿島」に、新たな名物が誕生。牛肉を使ったメニューが好評を博しているという。

大潮の時には約188㎢にも及ぶ干潟が出現する有明海の「肥前鹿島干潟」。道の駅鹿島はその目前に立ち、干潟展望館から見える景色は圧巻だ

「ななうら放牧牛」を使ったメニューが絶好調! 「HOUBOKU BURGER(ほうぼくバーガー)」には行列も

注文してから作る「HOUBOKU BURGER(ほうぼくバーガー)」
「ななうら放牧牛サイコロステーキ」は牡蠣焼き&BBQのメニューとして提供。千菜市(せんじゃいち/直売所)では冷凍の生加工肉を販売(画像提供:佐賀県鹿島市役所)

その牛肉を使ったメニューというのが、「ななうら放牧牛サイコロステーキ」「ななうら放牧牛ハンバーグ」「HOUBOKU BURGER(ほうぼくバーガー)」。どれも食べ応えがあり、売り上げは絶好調。特にハンバーガーは販売日に行列ができるほどの人気だ。はて?「ななうら放牧牛」って?と、耳馴染みのない名称にちょっと調べてみたら凄かった!エコでアニマルウェルフェアでSDGsで未来的スマート飼育。農林水産省が推奨する6次化(※2)も実現し、環境問題やいまの日本が抱える課題の救世主となるであろう超カッコイイ取り組みで生産されている牛肉だった。

栽培されなくなったみかん畑に経産牛を放牧 荒廃防止とイノシシ駆除目的ではじまった「ななうら放牧牛」

増え続けていた耕作放棄地を放牧場として有効活用

みかんの産地でもある鹿島市では、生産者の高齢化や価格の低迷で年々耕作放棄地が増えていた。それに比例してイノシシも増加。被害も深刻化していた。その解決法として導入されたのが牛の放牧だ。連れてこられたのはお産を経験し、お役御免となった雌牛。牛たちは広大なみかん畑に生え放題の草を食みながら、対イノシシ・セキュリティーに従事。農地の荒廃と害獣被害を食い止め、景観を守り、牛たちはストレスのない環境でのんびりと暮らせる。みごとな循環型放牧だ。また、牛たちには商品にならなかったみかんや酒粕、稲わらなどがエコフィードとして与えられ、食品ロスにも一役買っている。この放牧を行っているのが自身もみかん農園を営み、道の駅鹿島を運営する株式会社七浦の社長を務める増田好人さんだ。
「この辺り一帯(鹿島市嘉瀬ノ浦地区)は昔からみかん畑だったんです。いま放牧場として使っているのは3ha。およそ3000坪の広さで、地権者さんは22名。みんな、みかんづくりを辞めてしまいました。薮畑になってしまった広大な土地を有効活用して生き返らせたい。そう考え、はじめたのが放牧です。牛を安く買って、子牛を育てられないか、やってみることにしました」

牛の世話はスマートフォンひとつ!? 大学との共同研究に よるハイテクでスマートなリモート飼育を実施

さまざまな大学と連携し、スマートフォンを使った無人飼育を研究中

現在、この放牧場で牛の世話をしているのは増田さんただ一人。なんと、スマートフォン1つで牛の管理をしているという。牛は土地の草を食べているので基本的に餌は必要ない。しかし、放っておくと野生化してしまうので、1日に1度、栄養補助を兼ねて少量の濃厚飼料(穀物など栄養価の高い飼料)をおやつとして与えている。放牧場に音楽が流れると、それを合図に牛たちが集まる。その餌場には太陽エネルギーとITC(情報通信)技術を駆使した自動給餌マシンが設備されており、おやつを食べに来た牛の体重を自動で計測。また、4台のAIカメラが個体の健康状態を把握し、そのデータはすべてスマートフォンに送信される。

自由気ままに毎日を過ごす牛たち。こう見えて対イノシシ警備の任務は遂行中だ

自動給餌マシンは遠隔操作できるので、現場に人の手は必要ない。増田さんは牛に何かあるといけないので毎日放牧場を訪れるが、労働時間は1〜2時間。主な仕事は発情期の見極めと、子牛たちにおやつの食べ方を学習させることだという。ハイテク技術による新しい放牧の形が、複数の大学との共同研究によって実施されているのだ。「いまはまだ実験段階ではありますが、かっこいいスマート放牧がビジネスとして確立できれば若い人にも興味を持ってもらえると思います。負担が少なく効率も良いとなれば、収益アップも見込めます。後継者問題も解決に向かうのではないでしょうか」そう語る増田さん。時間短縮と作業の軽減により、ほかの仕事もできるようになる。コスパ、タイパ重視のZ世代にも魅力的に映るのではないか。

「経産牛は硬い」を覆す!? 地元食肉加工会社の協力で 「ななうら放牧牛」として商品化

牛脂を加えてやわらかく加工した「ななうら放牧牛サイコロステーキ」(画像提供:佐賀県鹿島市役所)

さて、比較的安価で手に入る経産牛は、知る人の多くが、硬い、味が落ちるという認識を持っている。実際のところ、食べ応えは申し分なく、味は人の好みによる。だが、確かに硬い。佐賀牛という世界に誇るブランド牛を生産する佐賀県で、食肉として販売しても勝算が立たない。また、県内に1頭だけをと畜し、食肉にしてくれる加工場もなかった。この問題を解決してくれたのが地元鹿島市の食肉加工会社エヌケーフーズだ。ミンチ肉加工技法で特許を持つ同社は1頭からと畜を引き受け、さらに得意分野である食肉加工の技術をもってサイコロステーキとハンバーグを開発。どちらも子供からお年寄りまで美味しく食べられるやわらかさ。噛めばジューシーな肉汁が口に広がる一品に仕上がり、「ななうら放牧牛」として商品化するに至った。ハンバーグは地元中学校の3年生に卒業祝い給食として採用されている。さらに、加工品を販売する「道の駅鹿島」では売り上げの一部を「肥前鹿島干潟」の環境保全のために寄付している。耕作放棄地を地域資源として活用した「ななうら放牧牛」は、食べることでSDGsに貢献できる素晴らしい牛肉である。ふるさと納税返礼品にもなっているので、食べてみたい方はそちらもチェックしてみよう。

※6次化とは

※ ラムサール条約湿地とは
「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)」の締約国は、自国の湿地を条約で定められた国際的な基準に従って指定し、条約事務局が管理する「国際的に重要な湿地に係る登録簿」に掲載します。これが「ラムサール条約湿地」です。(出典:環境省HP)。鹿島市の肥前鹿島干潟は2015年に「ラムサール条約湿地」に登録。