2024年01月18日

エミューのお肉ってどんな味? 未知との遭遇が基山町にあるぞ

 以前、所用で訪ねた基山町でとある人物からエミューが食べられると聞いた。ダチョウは食べたことがある。ローカロリーであっさりとし、意外と食べやすいもんだと思った記憶がある。しかしエミューとなると、これは初めて。そもそもダチョウとエミューの違いがよく分からず、「ダチョウが食べられるんだから、エミューも食べられるよね」ぐらいにしか思っていなかった。やたら熱心にエミューについて語る人物だったが、こちらは「へえ、そうなんですか~」といった調子だった。
 ある日、九州自動車道上り線の基山サービスエリアに立ち寄ると、レトルトのエミューキーマカレーが売られているのに気づいた。これがあのエミュー料理か?よく見ると、肉みそもある。サービスエリアの店舗外には小さな緑色のテントがあり、これがまた「基山ふるさと名物市場」という出張販売所。そしてやはりエミューの加工品が。エミュー料理、ちょっと気になってきたぞ。

基山サービスエリア上線に基山の名物としてエミュー加工品を販売している。
10時から17時まで上り基山SAに出店する基山ふるさと名物市場
基山ふるさと名物市場には食品以外のエミュー商品も並ぶ。
ジャーキーのようなエミューの燻製ハムは300円

町の活性化にエミュー飼育を エミューが町の将来を救う?

左から鳥飼善治さん、吉田毅さん、熊本富雄さん、柳瀬浩司さん

 某月某日、エミュー飼育者に会うために基山町へ。出迎えてくれたのは「鳥飼建設株式会社」会長の鳥飼善治さんと農業生産法人「株式会社きやまファーム」の柳瀬浩司さん。実は鳥飼さんはきやまファームの代表取締役でもあるのだ。きやまファームは鳥飼グループの関連会社であり、基山町の農業の活性化のためにエミュー事業を展開しているという。
 基山町でエミュー飼育が始まったのは10年前の2014年。その背景には地方が抱える共通の課題があった。少子高齢化社会で耕作放棄地、休耕田が増えて農地が荒れる、農業所得の低迷、過疎化、イノシシなどの害獣による被害などなど。そして当時、基山町は将来の人口消滅可能性が高い都市の佐賀県ワースト2位。子育て世代の人口減少率が高くなっていた。誰かの言葉ではないが、「どげんかせないかん」だったのである。そこで出てきたのがエミュー飼育。
 「耕作放棄地などでエミューを飼育すれば、雑草を食べてくれる。地面を踏みつけ、雑草も生えにくくなり、イノシシが来なくなる。エミューの糞が肥料となって耕作放棄地を肥沃にする。エミューの肉を加工販売し、脂は化粧品原料に使用し、収益を得る」と二人が口々に語ってくれた。エミューの脂肪は人間の皮脂構造に近いので、化粧品に使うと浸透しやすいのだとか。つまり、早い話が循環型農業と6次産業化ということだ。さらに鳥飼さんは「エミュー事業に若者を集め、産業化を進めれば若い世代の定住と住宅需要が望める」という。基山町のエミュー事業、実は壮大な町の活性化事業でもあったのだ。

エミュー事業について語る柳瀬さん(左)と鳥飼社長
深緑色のエミューの卵。日が経つとくすんでくるという。

4羽でスタート、現在は800羽以上 ヘルシーな肉の味が徐々に浸透中

 エミュー飼育は4羽からスタートした。その直後に県のチャレンジ交付金で飼育数を増やし、事業化に勢いをつけたという。エミューのキーマカレーも開発して販売へ。ただし、当初は羽数が少ないので北海道のエミュー肉を使用したとか。基山サービスエリア上りで売っているものだ。「今は基山町産エミュー肉使用ですよ」と柳瀬さん。そのサービスエリアに売り込んだのは松田一也町長だとか。熱心に基山のエミューを私に語った人物も実は町長なのだ。
エミューはダチョウと違って羽がない。つまりは胸肉が少ないのだ。そのため食肉となる部分は主にもも肉。「エミューの肉は脂肪に包まれた状態なので、肉を切るとそこから脂肪が分離するんですよ」と柳瀬さん。エミュー肉が低脂肪、低カロリーなのはそのためだ。そして高タンパク質で鉄分は豚肉の4倍ある。
 エミューはダチョウと違っておとなしく、育てやすいのも利点。産卵可能な成鳥になるまでは18か月を要し、飼育期間24か月から36か月で食肉に。現在、基山町には飼育場が4ヶ所あり、飼育数も800羽を超えている。実際、エミュー事業は右肩上がりだという。

オーストラリア原産のエミューは人懐こく、好奇心旺盛。寒さにも強く育てやすい。
ダチョウとは異なり、エミューのくちばしは手にあたっても痛くないという。

エミューワングランプリも開催 エミューグルメは基山町の味!

2023年エミューワングランプリの告知チラシ

 町長のトップセールスをはじめ、基山町はエミュー事業に力を注ぐ。エミュー肉の普及を図り、町内の飲食店にも積極的に売り込む。そして2023年3月、町おこしイベントの一環として「エミューワングランプリ」を開催した。町内の飲食店7軒が参加し、それぞれのエミュー料理を競った。エミューのステーキ、メンチカツ、つくねなど、7品目のエミュー料理がエントリー。その結果、肉バル・グリルパン料理の「うえちゃん家(ち)」の「きやまエミューワインソースステーキ」と「醸(かも)し家(や)おおくぼ」の「エミューバーガー」がグランプリを獲得した。因みに、「醸し家おおくぼ」のバーガーはグランプリ出品のためのメニューだ。

松田町長を挟んで左が「うえちゃん家」の上田さん、 右が「醸し家おおくぼ」の大久保さん
「うえちゃん家」の「エミューワインソースステーキ」
「うえちゃん家」にはエミューの「ブルスケッタグリル」 もある
「醸し家おおくぼ」の「エミューバーガー」は店頭での提供は行っていない。

基山町でエミュー料理を食す 土産でエミュー加工品を食す

「一福」の一品料理「エミューの串揚げ」560円
「ホットステーション」の「エミュー野菜炒め」850円

 基山町で実際にエミュー料理を食べることに。まずは住宅街の中にある「一福」へ。エミュー料理の定食は予約が必要だが、一品料理で串揚げを頼める。一皿2本で1串にエミューのカット肉2つとチーズが入っている。エミューは鳥類だが、肉の味は牛肉に近い。噛み応えは柔らかめの地鶏といったところ。予想外に臭みもなく、食べやすい。いや、十分イケる。定食では串揚げ、タタキ、エミュー肉の混ぜご飯が味わえるとか。
 もう一軒、町役場近くの「ホットステーション」でもいただく。エミュー肉がしっかり味わえる「エミュー野菜炒め」はご飯、みそ汁、小鉢2品がつく定食スタイル。因みにエミューワングランプリ出品作の「エミュー健康丼」もメニューにある。エミュー肉は、確かに味はあっさりしているが、肉の食感がしっかりしているため、肉を食べる充実感がある。鳥飼社長によると、飲食店によっては塩麹でもむなどの下ごしらえをして肉を柔らかくしているという。
 後日、買い求めたキーマカレー、ハム、肉みそも食す。キーマカレーはルーがたっぷりで、エミューのひき肉は控えめ。中辛よりもややマイルドで、スパイシーさよりフルーティな味に仕上げている。ハムは塩分控えめな印象。好みのドレッシングをかけて食べるのがお勧めだ。肉みそはニンニクや生姜の後味が追いかけてくる。ご飯のお供にはもちろん、冷奴やうどん、中華麺に乗せても合う。
 つくづく思ったこと。それは基山町のエミューは町の未来を担っているということ。そう、エミューの肉力は地域活性化の原動力なのだ。

肉みそ680円、燻製ハム300円、キーマカレー600円 いずれも税込み
エミューの燻製ハムの盛り付け例
エミューのキーマカレーの盛り付け例
ご飯のお供になるエミューの肉みそ