おいしい島 九州

和食文化を支えてきたうま味のために 伝統的な製法で作られる〝鰹節〟

鰹節<鹿児島県枕崎市>

ユネスコの世界無形遺産に登録されている「和食:日本人の伝統的な食文化」。その特徴の一つに挙げられるのが「うま味」の上手な使い方でしょう。特に、昆布やイリコ、鰹節から引くうま味のある出汁は、伝統的な日本の食文化を支えてきた味覚の代表と言えます。鹿児島県枕崎市は、カツオの漁港として知られる水産都市。伝統的な製法で作られる鰹節は、生切りと呼ばれる工程に始まります。手作業で行われる鰹節製造の現場を訪ねました。

約310年前に伝わった製法で昔ながらのうま味を作る

鰹節の製造法が鹿児島県枕崎市に伝わったのは、約310年前といわれています。枕崎市は、日本の食文化を支える出汁に欠かせない鰹節の産地であり、生産量は日本一。市内の約50軒の鰹節工場で、国内の約4割が生産されています。枕崎産のかつお節の特徴は、伝統的な製法で、徹底的な品質管理のもとに製造されている点にあります。昔ながらの鰹節が作り続けられているのです。

株式会社西村浅盛商店は、1950年の創業以来、鰹節を製造しています。

代表取締役の西村協さんは、「高品質で安全、安心な鰹節を作りたい」と思いを語ります。午前7時30分。加工場ではまず、枕崎港に水揚げされて冷凍保管していた鰹の生切りから作業が始まります。頭を落として包丁を入れ、内臓部分を取り除き、後工程で雄節と雌節に分けやすいよう、背や腹に切り込みを入れます。西村さんは、「1日に6tほどを処理します。3kgサイズだと2000尾ほどになりますね」と話します。大きなサイズのものは三枚に下ろした後、四つ割りにします。一連の流れ作業はスピーディー。鰹が整然と並べられたケースが次々に積み上がります。そしてすぐに煮熟(しゃじゅく)へ。鰹の大きさにもよりますが、煮釜の中で96度前後で2時間ほどかけて煮熟します。表面に浮いてきたアクは、手作業ですくいます。「この手間をかけることで、澄んだ味になると信じているんですよ」と西村さん。

早朝から始まる生切り作業

頭を落とし、内臓を取り除いた鰹

ケースを重ねて煮釜で煮熟します

職人の技が求められる気の抜けない修繕の工程

煮た後は、骨抜きの工程へ。まだ温かい鰹を雄節(背)と雌節(腹)の4本に割り、ピンセットで1本ずつ丁寧に、手際よく骨を抜きます。この工程で鰹節の形に。本節(生切り時に三枚に卸し四つ割りにしたもの)の場合には骨抜きの後鰹のすり身を塗り込んで修繕し、綺麗に仕上げる工程が待っています。この修繕は、職人の技が求められる重要な部分で、腕の見せどころだと西村さん。「崩れやすいので丁寧に仕上げないと」と、職人の表情に。すり身を均等に塗ることで、全体的にきれいに水分が抜けるそうです。

さらに薪で火を焚き、80〜90度ほどの熱風を起こした乾燥室に移動させます。ここで2日間燻してしっかり乾燥させることで、表面がカラッとした仕上がりになるそうです。その後急造庫と呼ばれる乾燥室に入れ約3週間ほど燻します。この段階が、荒節と呼ばれるもの。

3週間ほど経つと、鰹はカチカチに硬くなっています。ここから、表面を削ってカビ付けと乾燥を繰り返し、3〜5か月寝かせて熟成させたものが、高級品である本枯節です。

西村さんは「カビをつけることで生臭さがなくなり、枯れている分、香りが高くて旨味があります」と教えてくれます。

煮熟後の鰹

手作業で行われる骨抜き

加工場にある乾燥室(最初に入れる乾燥室)

薪に使うのは、ナラやクヌギなどの広葉樹

すり身を塗る修繕の工程

燻した後の荒節の断面。宝石のように輝いています

裸節(左)本枯節(右)。裸節は荒節の表面を削ったもの

正しい和食文化を継承し、鰹節の魅力を海外にも発信

さて、鹿児島県北部の伝統食の一つに、茶節があります。これは鰹節を削り、味噌を入れてお茶を注いだもので、農家の人々が農作業の合間に飲んでいたもの。疲れた時の滋養だったと言われています。西村さんは、枕崎の土産品として、鰹節と味噌、お茶の粉末をセットにして商品化にも取り組んでいます。

西村さんは、「日本人として残したい和食文化のためにも、多くの人にちゃんと出汁を引いて調理する習慣を持ってもらえればと思っています」と言います。また、ヨーロッパでも本物の鰹節を知ってもらいたいと、同業の10軒と協力してフランスに加工場を設立。「正しい和食文化の発信にも力を入れていきたい」と、力強く話してくれました。

鹿児島半島南部の郷土料理と言われる「茶節」。お茶に鰹節と味噌を入れて飲みます

西村協さん

 

取材協力/枕崎水産加工業協同組合

株式会社西村浅盛商店

鹿児島県枕崎市宮前町166/TEL.0993-72-0454/http://katsuobushi-nishimura.jp

INFORMATION

枕崎お魚センター

鰹節をはじめ、枕崎を代表する海産物や地魚などが揃います。また、かつお節削り体験(要予約)も可能。削り器を使って自分で削った鰹節を茶節にして味わうことができます。2階の展望レストラン「ぶえん」では、枕崎港で水揚げされた地魚の料理が用意されています。

鹿児島県枕崎市松之尾町33-1

TEL.0993-73-2311

http://makurazaki-osakana.com