九州北部の茶の歴史は、中国から帰国した栄西や栄林らの僧侶や寺を拠点に広まっていったものだった。いわば、当時の上流階級の味わう飲み物だったわけだ。
しかし、年月が流れて茶の木が広まると、それは庶民の口にも愛されていく。南九州では、こうした「暮らしに根づいた茶」の風景が印象的だ。
たとえば、九州の秘境といわれる宮崎県椎葉村。この山奥で唯一「焼畑」を続ける椎葉秀行さん・クニ子さん夫婦の茶の木も、やはり焼き畑に生えてきたものである。下界の茶畑は美しく列が並び、きれいに剪定されているが、こんな山中では枝も葉も伸び放題、茂り放題。しかしその新芽を摘んで飲むお茶は、厳しい山仕事を癒してくれるのだ。
山の暮らしでは「茶の実」も大事な収穫物。普通の茶園では、一番茶や二番茶の収穫や剪定のために実がつきにくいのですが、山村ではこの茶の実を集めて油を搾り、天ぷらや炒め物に使ったとか。今ではこの茶油が、健康にいいとして逆に見直されているらしい。
同じ宮崎の高千穂では、山あいの畑で農作業するお茶の時間に昔から「かっぽ茶」が飲まれていた。竹やぶの竹を切って節を取り、水を注いで焚き火に突き刺して湯を沸かす。待つ間に、その辺の“自生の茶の木”の枝を刈って火であぶり、葉っぱを竹筒に入れて煮出せば「かっぽ茶」のできあがりだ。
こんなひなびた風習も、今はもうほとんど廃れてしまった。しかし、今も庭や畑に茶の木を植えて自家製のお茶を作る家は少なくない。南九州の旅をしながら、車窓の風景でそんな”身近な茶“を見つけてみるのもおもしろい。
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