記事 ARTICLE

入島禁止の世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島を徹底調査!

今年7月、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」がユネスコの世界文化遺産に登録されました。島自体が御神体とされ、一般の入島が禁じられた沖ノ島。その神秘に満ちた聖地と、人々の信仰を感じる旅をご紹介します。

日本で一番新しい世界遺産を巡る

日本で一番新しい世界遺産となった「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」。そもそも沖ノ島とは宗像大社の境内地で、九州本土から約60㎞離れた玄界灘に浮かぶ島。4〜9世紀にかけて、国家の安寧を願う国家的な祭祀が行われていました。
沖ノ島への入島は原則禁じられ、“島にあるものは一木一草一石たりとも持ち帰ってはならない"“島で見聞きしたことを漏らしてはならない"などの禁忌があります。それが、沖ノ島が約1,000年もの長い間、謎のベールに包まれていた理由のひとつです。

登録されたのは合計8つの構成資産。
宗像大社沖津宮(おきつみや)がある沖ノ島と、島に付随する3つの岩礁(小屋島、御門柱、天狗岩)をはじめ、本土から約11㎞に浮かぶ大島の中津宮と沖津宮遙拝所、本土の宗像大社辺津宮、そして信仰を支えた宗像族の墓とされる新原・奴山古墳群からなります。
沖ノ島に立ち入ることはできませんが、今回の旅では、宗像三女神やその信仰を感じられる、九州本土の宗像大社辺津宮と、大島にある中津宮と沖津宮遙拝所を巡ってみました。
沖ノ島と九州の位置関係です。沖津宮から中津宮、辺津宮と一直線になっている様子がおわかりいただけると思います。
沖ノ島の森にたたずむ沖津宮。古代祭祀の場であった巨岩群の間に社殿が築かれています(写真提供:宗像大社)

宗像三女神信仰の拠点、宗像大社辺津宮

まず訪れたのが、九州本土にある宗像大社辺津宮。
「日本書紀」によると、天照大神の御子神として、田心姫神(たごりひめのかみ)、湍津姫神(たぎつひめのかみ)、市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)の三姉妹の神様が生まれました。宗像大社とは、その宗像三女神を祀る神社の総称です。
宗像大社辺津宮にはその三女にあたる、市杵島姫神が祀られています。

さて突然ですが、ここで問題です。
宗像大社はみなさんもおなじみの、あるお守りをはじめて生み出した神社としても知られていますが、それはなんでしょう?
正解は、交通安全のお守り。
昭和38年(1963年)、日本で最初に車内に取り付ける専用の交通安全のお守りがつくられました。古代には、大和朝廷や遣唐使の航海安全を祈願してきた宗像大社らしいお守りですね。
現在も当時のデザインそのままのお守りを授与しています。
さて、鳥居の隣にある授与所の脇を通り、参道を進むと本殿があらわれます。
社殿は12世紀までに築かれましたが、その後戦乱による焼失などを経て、天正6年(1578年)に大宮司第80代宗像氏貞によって再建。
そして拝殿は本殿再建後の12年後、当時の筑前国の領主・小早川隆景公によって再建されました。本殿・拝殿はともに国の重要文化財に指定されています。
本殿の屋根。屋根が流れるような曲線を描いており、戦乱の時代に建立されたとは思えない優美な姿です
社殿の周りには、辺津宮の末社が並んでいます。
由緒によると、第3代福岡藩主黒田光之によって宗像郡内の末社が集められ、現在は22の社殿に127の末社が鎮まっています。
本殿にお参りしたあとは、向かって右の道を抜け、高宮祭場を目指します。
高宮祭場は辺津宮の起源とされる社殿を持たない古代祭祀の場・下高宮祭祀遺跡の一部で、宗像大神「降臨の地」と伝えられる場所。木漏れ日のなか宗像山への階段をのぼっていくこと約10分。次第に人影も少なくなり、あたりの空気が静寂と清々しい緊張感で包まれているのを感じます。
高宮祭場は“パワースポット"としても有名なのですが、何の事前情報がなく訪れたとしてもその力を肌で感じられるほど、空気感が違います。
現在も祭礼日には神事が執り行われています。
観覧料は一般800円、高校・大学生が500円、小・中学生が400円です。
宗像大社辺津宮で必ず訪れて欲しいのが、神宝館。
沖ノ島の神宝は昭和期による学術調査で発掘され、その8万点のすべてが国宝に指定されています。まさに沖ノ島が「海の正倉院」と呼ばれるゆえんです。
そんな8万点もの国宝を収蔵・展示する施設は、全国的にみても類をみないのではないでしょうか。
金製指輪
収蔵されているのは、銅鏡や武器、工具、装飾品、馬具、土器、貝製品など本当に多種多様。金製指輪、金銅製龍頭など沖ノ島祭祀遺跡から出土した奉献品など、どれも当時の技術と意匠の粋を集めた一級品で、展示物のたびにため息が漏れそうです。
銅鏡。沖ノ島からは71面もの銅鏡が出土している

沖ノ島と本土を繋ぐ、宗像大社中津宮

さて、次は九州本土を離れ、7㎞沖合の大島に向かいます。
宗像大社中津宮などがある大島は福岡で最大の島で、約700人の島民が暮らしています。
神湊(こうのみなと)港渡船ターミナルから市営渡船に乗り、15〜25分。運賃は、大人560円、小児が280円です(大人に同伴する未就学の子どもは大人1人につき1人無料)。

大島には島内を周遊する「グランシマール」という観光バス(1乗車につき300円)が周遊していて、島の北側に位置する宗像大社沖津宮遥拝所や、風車展望所や砲台跡などにもアクセスできるので便利です。
宗像大社中津宮が鎮座するのは、港から徒歩5分の距離にある丘の上。
ここには、宗像三女神の一柱、湍津姫神(たぎつひめのかみ)が祀られています。
本殿は県の文化財に指定されています。
本殿の裏手からは御嶽山の山頂へと続く参道が続いています。
標高224メートルの山頂からは、晴れた日には沖ノ島まで望むことができます。
境内には「天の川」という川が流れていて、その川を挟んで牽牛社と織女社があり、大島は七夕伝説発祥の地とも呼ばれています。中津宮は縁結びのご利益があるといわれています。

沖ノ島を拝む、宗像大社沖津宮遙拝所

大島より海上50㎞に位置する沖ノ島。容易に立ち入りを許さない島へ、人々はどのように参ってきたのでしょう。
そのために設けられたのが、大島の北端近くに位置する宗像大社沖津宮遙拝所です。遙拝所は沖ノ島を御神体として拝む拝殿の役割があり、容易に立ち入ることが出来ない島を、青い海をまたいで掌をあわせてきました。
海岸に面した斜面のなかほどに建ち、眼下に広がるのはただただ雄大な玄界灘。
ここまで眺望が素晴らしい神社はそうそうないでしょう。
階段の手前には石碑があり、遅くとも18世紀中頃には、この地に遙拝所があったとされます。
晴天で、空気の澄んだ日には、水平線上に浮かぶ沖ノ島をはっきり望むことができます。
宗像大社沖津宮遙拝所

福岡県宗像市大島1293

https://www.welcomekyushu.jp/world_heritage/spots/detail/28

世界遺産に登録された8つの構成資産。沖ノ島自体は立ち入りができませんが、九州本土や大島には、宗像三女神への信仰の手がかりが数多く残されています。その世界でも稀な信仰のカタチを辿ってみてください。


九州の世界遺産一覧はこちら

地図を見る

Google Mapの読み込みが上限を超えた場合、正しく表示されない場合がございますので、ご了承ください。

関連するタグ

タグ一覧を見る

関連記事

週間記事ランキング

この記事を書いたフォトライター

PAGETOP