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大きくないのに“ぢゃんぼ餅”!? 鹿児島名物「両棒餅(ぢゃんぼもち)」とは?

南北朝時代、懐良親王が鹿児島市の谷山城に滞在していた際、餅を作ってそこへ2本の串をさし、出したところ、料理の名を聞かれ、とっさに「両棒(ぢゃんぼ)」と言ったのが始まりといわれる「ぢゃんぼ餅」。一口サイズなのに“じゃんぼ”だなんて…、と鹿児島県民も驚くローカルスイーツの謎と味を探る旅に出かけませんか。

両棒餅を食べるなら磯地区へ。テイクアウトもOK!

両棒餅の店が集まる磯地区は桜島のビュースポット

桜島を望む鹿児島市の磯地区。このエリアに両棒餅が食べられる店が集中している理由の一つには、「仙巌園」こと島津家別邸の磯庭園をはじめ、風光明媚なビュースポットがあり、目の前の錦江湾で泳げる海水浴場もあって、大勢の人が行楽に訪れてきたことが挙げられます。ちょっと小腹がすいたというときに、お茶と両棒餅で一服。なんとものどかな時間が流れます。

【仙巌園 両棒餅屋】磯にある名勝「仙巌園」のお庭でいただく3つの味の両棒餅

土産処「薩摩のれん」の両棒餅屋で焼きたてを

仙巌園は、鹿児島を代表する観光名所。島津家別邸で、地元では磯庭園として親しまれています。明治日本の産業革命遺産として世界遺産登録されている集成館事業の歴史も楽しみつつ、園内の土産処「薩摩のれん」の両棒餅屋で、焼きたての両棒餅をいただきましょう。

焼きたての餅に2本の棒をさし(写真左)、店自慢のたれにつけ(写真中央)、皿に盛って完成(写真右)

作り方を解説しながら工程を見せてくれたのは、両棒餅を焼き始めて4年の井口貴史さん。一口サイズの餅を、約300℃に熱した鉄板で2、3分ほど焼きます。季節によって焼き時間を調整しながら、両面にこんがり焦げ目が付いたら、2本の棒をさし、店自慢のたれにつけ、皿に盛ったら、焼きたての香ばしい両棒餅の完成です。

商品を受け取ったら、店内の畳表の長椅子に腰掛けて食べられます

会計を済ませ、すぐに受け取ったのが、“小さな巨人?"こと“ぢゃんぼ"餅。店自慢のたれは、「しょうゆだれ」「みそだれ」「黒糖きなこ」の3種類があり、2種類を選んで味の違いを楽しめます。しょうゆだれは、ザラメを使うことでこくが出て、甘いたれに仕上がっています。みそだれは、麦みそ・すりみそ・赤だしみその3種類をブレンドした風味豊かなたれです。黒糖きなこは、奄美産の黒糖にこだわり、甘ったるくなりすぎないように、きなこでまろやかに仕上げています。

左は持ち帰り用、右は店内食用。 種類は左手前が黒糖きなこ、奥がしょうゆだれ、 皿盛りは左がしょうゆだれ、右がみそだれ

「6本で1セットなので、味がくどくならないように風味付けや甘さに工夫し、2種類の風味を楽しんでいただけるようにしています」と井口さん。3種類一緒にという欲張りは無理ですか?と尋ねると、「復活させたい気持ちはあるんです。検討中です」とにっこり。大河ドラマで両棒餅を知ったという県外客も多いといいます。6本で360円(黒糖きなこ入りは420円)、10本なら600円(同700円)。10本黒糖きなこのみは800円です。「毎朝つきたての餅を提供しています。全て自家製です。ぜひお召し上がりください」と井口さん。

仙巌園「土産処 薩摩のれん」両棒餅屋

鹿児島県鹿児島市吉野町9700-1

https://www.senganen.jp/

【中川家】両棒餅1つで140年!今は持ち帰りメインで営業中

「ぢゃんぼ1つで140年って、自分たちがびっくりする」と澄子さん

磯街道の海水浴場近くには、カーブする地形に沿うように両棒餅専門店が4軒立ち並び、「“ぢゃんぼ餅"街道」とも呼べそう。明治12年ごろから約140年の歴史を刻むのが「中川両棒餅家」。平成5年の8・6水害の影響を受けたものの、建築基準法により同じように家を建て替えることができなかったため、「この店舗付き住宅も築140年になるのよ」と愛おしそうに話す中川澄子さん(86)。娘の礼乃さん、嫁のかおりさんと3人で「元祖中川家」の味を守っています。

澄子さんが焼いた餅にかおりさんが2本の串をさし(写真左)、甘辛いみそだれにつけて完成(写真右)

自慢の餅は、「正月の餅と一緒だけど、火力の強いバーナーで蒸すから餅米が芯から軟らかくなるの。後は、餅つき器で餅をついて、一口サイズに機械で切ってます。義母のころは手作業だったけれどね」。おいしさの余り、餅を分けてほしい、といわれることもあるそう。
味の決め手は中川家秘伝のみそだれ。ザラメと麦みそを煮込んで作る甘辛いみそだれです。

「味で勝負しろ」が亡き夫の口癖

両棒餅と店の由来を手書きで掲示

鹿児島市荒田生まれで、父親の仕事の関係で沖縄にもいたという澄子さん。昭和19年に本土に引き揚げてきて、23歳で中川家に嫁いでから、「もう63年間も両棒餅を作り続けてきたのね」と感慨深げ。守り続けてきた素朴な味は皇族にも愛され、こんなエピソードも。「一度はね、平成の天皇皇后両陛下がスケジュールの都合で立ち寄れなくなったので、自分たちから空港まで両棒餅を作る道具一式を持って行って、作りたてを食べていただいたの」。鹿児島ならではのローカルスイーツがロイヤルスイーツにもなったという逸話です。

店舗兼住宅をリニューアル中

ほぼ改修が終わった眺めのいい2階

現在リニューアル中の「中川家」。しばらくは持ち帰りのみ、10個で500円です。県外客から「みたらしとも全然違った味だから、お取り寄せしたい」という声もあるそうですが、「餅だし、たれの味はその日が勝負なので、やっぱりここで買ってもらいたいです」と澄子さん。店内で食べられる日も、そう遠くなさそうです。

中川家(外観)
中川家

鹿児島県鹿児島市吉野町9673

https://www.kagoshima-yokanavi.jp/gourmet/10249

【平田屋】明治12年創業といわれる老舗の味。しょうゆだれの甘さが後を引くおいしさ

元気のいい女将いずみさんが接客

周りの両棒餅店と時を同じくして創業したのが「平田屋」です。4代目店主の平田正勝さん、女将のいずみさん、息子の勝彦さん・竜平さん、娘の幸さんの家族5人が連携プレーで次々にやってくる客の注文をてきぱきとさばいていくのを眺めているのも、活気が感じられて気持ちのいいものです。座敷に上がってこたつ席で家族仲良く両棒餅を食べる光景や、持ち帰り用が焼けるまで椅子に腰掛けて待つ客の姿が一つになって、気取らない磯の茶店の雰囲気を醸し出しています。

両棒餅にさす竹串も自分たちで手づくり。秘伝のしょうゆだれづくりも親から子へ

親子で秘伝のたれづくり

平田さんたちのこだわりは、竹串づくり、餅づくり、秘伝のたれづくり、焼き加減などに現れています。串は真竹を裁断し、滅菌、削り、乾燥作業までを4日間かけて行っています。餅は、佐賀県産のもち米を蒸した後、専用の餅つき器でまんべんなくこね、食感にばらつきがないように調整しています。その際に、ジャガイモの澱粉をまぶしているのだそう。秘伝のしょうゆだれは、地元のヒシク醤油と砂糖をベースに独自の分量で配合。とろみが出るまで約20分ほど煮立てます。

焼きと仕上げの連携プレーも息ぴったり

焼きと仕上げは、専用の焼き台で軽く焦げ目がつくまでサッと焼き上げ、たっぷりとたれになじませます。焼き終えたころに、また次の注文が入り、大量の餅が投入され、まるで踊るようにぷっくり膨らんでは焼き網の上を通過していきます。

ぷっくりと膨らんだ餅に2本の竹串を次々と
しょうゆだれがなじんだ両棒餅と、少し塩味がある名脇役の山川漬

席で待っていると、甘いたれがなじんだ両棒餅と、一緒に添えられた少し塩味のある山川漬がやってきました。甘味と塩味、それらを中和してくれる爽やかな知覧茶の三位一体がたまりません。餅を口に運んでは茶をすすり、山川漬をかじってはお茶をごっくん。この無限ループに陥ってしまうのでした。

桜谷と平田どんの鼻。美しい地名に誘われて桜の植樹も

ぢゃんぼ餅 平田屋(外観)

ところで、平田屋のある一帯は、「桜谷」という地名なのだそう。店の前は海に突き出した地形から、平田どんの鼻と呼ばれてきました。店の裏山は海抜50mで、頂には侍が戦に赴く際に参っていた摩利支天が祭られていたそう。平田さんたちは、その地名にふさわしい風景を再生しようと、桜の苗木を買って来ては、毎年植樹しています。「もう100本ぐらい植えたかな。育っているのは50本ほど。毎年買って来る品種が違うから、河津桜からソメイヨシノまで長い期間花が楽しめる」と笑います。桜を愛でる軍人さんや歌人への貸席業から始まり、両棒餅を提供する茶店として今に至っていると話す横顔は、たれのなじんだ両棒餅のように艶々と輝いて見えました。

ぢゃんぼ餅 平田屋

鹿児島県鹿児島市吉野町9673

https://jyanbomochi.com/

【天文館フェスティバロ カフェ「みなみ風」】直営農場で採れた甘〜い唐芋とフレッシュハーブ。南の風を感じるスイーツを召し上がれ!

天文館の「唐芋ワールド」2階にある明るいカフェ

ぢゃんぼ餅が"和"でしたので、続いては鹿児島ローカルスイーツの"洋"もご紹介。
鹿児島市の繁華街、天文館にある「唐芋ワールド」の2階に、ゆっくりくつろげる明るい喫茶スペース「カフェみなみ風」があります。直営農場のサツマイモを使った人気スイーツ「唐芋レアケーキラブリー」などを製造販売する株式会社フェスティバロ社が運営しています。
建物の名前に付いている唐芋(からいも)とは、サツマイモのことです。唐(中国)から琉球(沖縄)を経由して薩摩(鹿児島)、さらに江戸(東京)に伝わった甘藷(かんしょ)なので、地元ではサツマイモをカライモとか、カライモをさらに縮めてカイモなどと呼びます。江戸時代に飢饉を救った食べ物として重宝されたのはもちろん、ここ最近は、糖度40度にもなる焼芋が注目を集め、その人気は、老いも若きもサツマイモといった具合に幅広い世代の支持を得ています。

おすすめは「あつあつ焼きたてラブリー」

あつあつ焼きたてラブリーをどうぞ!

ここでおすすめしたいローカルスイーツが、通常は冷たいままで味わうフェスティバロの人気商品「唐芋レアケーキラブリー」を、焼きたてで味わう「あつあつ焼きたてラブリー」です。タルトのカップの中にラブリーの生地を絞り入れて焼き上げたもので、唐芋の風味がふんわりと増して、ラブリーはとろっ、タルトはさくっとした食感。ドリンクとアイスクリームが付いたセットは580円、テイクアウトは単品のみで250円です。ドリンクに「焼芋ジュース」を選ぶとプラス50円の630円で唐芋づくしのスイーツセットが楽しめますよ。

天文館通の市電などを眺めながら唐芋スイーツでくつろいで

テイクアウトもできる焼芋ジュース(単品360円)は、紅はるかとアヤムラサキの2種類の芋にミルク、黒糖を合わせたスムージーのような自然な甘さのドリンク。フェスティバロ直営の「みなみ風農場」では、156種類の唐芋を育てていて、その農場で採れた芋や、自家製フレッシュハーブで作るドリンクは、まさに南国鹿児島の爽やかな風を感じさせます。

テイクアウトは1階の天文館フェスティバロで注文を

1階の天文館フェスティバロ店内

紹介したスイーツやドリンクのテイクアウトは、「唐芋レアケーキラブリー」をバラエティー豊かに取り揃えた1階のショップで注文できます。待ち時間も、ショーケースを眺めていればあっという間。冷たいままで味わう「唐芋レアケーキラブリー」にも目移りしてしまいそうです。

天文館フェスティバロ カフェ「みなみ風」

鹿児島県鹿児島市呉服町1-1(唐芋ワールド2階)

https://www.festivalo.co.jp/tenpo/tenmonkan.php

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