九州の酒


芋焼酎

薩摩焼酎

 「鹿児島県産の良質なサツマイモ、水を使い、鹿児島で製造・容器詰めされた本格焼酎」と定義されているのが薩摩焼酎です。国際的な知的所有権の保護規定であるWTO(世界貿易機構)のTRIPS(トリプス)協定に基づき「薩摩」の名称も厳しく守られています。
 焼酎の歴史は古く、1500年代には薩摩半島の南端ですでに米焼酎が作られていましたが、桜島の火山灰で出来たシラス台地で良く育つサツマイモが主原料の芋焼酎が主流となっていきました。
 芋焼酎の仕込みの時期はサツマイモの収穫時期(8月末から11月)とほぼ同じです。なぜなら、良い香りを醸し出す芋焼酎を造るにはサツマイモの鮮度が命だからです。また、使用されるサツマイモの種類や酵母、水の違い・ブレンドの仕方により味わいの違いが生まれます。

薩摩焼酎
宮崎の芋焼酎

 九州では、宮崎県は鹿児島県に次ぐサツマイモの産地で、鹿児島に近いエリアでは芋焼酎が盛んに造られています。一般的な焼酎のアルコール度数は25度が多いようですが、宮崎の本格焼酎ではアルコール度数20度のソフトなタイプも多く用意されています。これは戦後密造焼酎が出回った時、これに対抗し、税額の低い20度にして安い値段で焼酎を販売したため、20度が主流になったとされています。いずれにしても豊富な銘柄がありますので、飲み比べを楽しんでみて下さい。

宮崎の芋焼酎

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麦焼酎

壱岐焼酎

 麦焼酎発祥の地として知られているのが、長崎県の壱岐(いき)島です。16世紀頃に中国から伝わった蒸留方法を生かして日本で最も古い焼酎を生み出しました。
 壱岐の麦焼酎の定義は、米麹1/3、大麦2/3の配合で、壱岐の水を使用し、壱岐で醸造・蒸留した焼酎であること。特徴は、ほのかに麦の香りが漂う上品な味わいです。現在、壱岐には7つの焼酎蔵があり、伝統的な壱岐焼酎だけでなく、様々な個性を持った麦焼酎が造られています。壱岐焼酎もまた、WTO(世界貿易機構)のTRIPS(トリプス)協定に基づき、世界ブランドとして認定されています。

壱岐焼酎
大分むぎ焼酎

 大分はもともと日本酒の文化圏でしたが、1970年代に主原料が大麦・麹も麦100%の麦焼酎を開発し、全国的に注目されはじめました。その後地域団体商標として登録されたのが「大分むぎ焼酎」です。大分むぎ焼酎が全国の麦焼酎ブームの火付け役ともいえ、品質の高い焼酎を生産しています。
 麦焼酎は飲みやすさと上品な香りが人気の源ともいえますが、もうひとつの特徴が紅茶やコーヒー、トマトジュースやカルピスなど、他の飲み物で割ったときの美味しさにあります。麦茶やジュース類など幅広くブレンドを楽しめるのも人気の理由のひとつです。ご当地大分では、ロックや水割りに、大分県の特産カボスをギュッと搾って香り付けして飲むのが一般的です。

大分むぎ焼酎
宮崎の麦焼酎

 大分に近い宮崎北部では、麦で本格焼酎が造られています。中には手に入りづらいプレミアム物の銘柄もあり、焼酎ファンに人気です。
 香りの良さが麦焼酎のポイントと言えますが、麦焼酎をお湯割りや水割りで飲む際に覚えておくと役に立つのが水の知識。宮崎で麦焼酎が生産されている地域には、超軟水の尾鈴山系などがあります。ミネラルウォーターを使うなら、同じ超軟水タイプで割ると「うまさ」を逃がしません。焼酎を水で割ってから1~2日寝かせてから飲むと美味さが倍増すると言われています。この飲み方を「前割り」と呼びます。

宮崎の麦焼酎

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米焼酎

球磨焼酎

 米のみを原料として、人吉球磨の地下水で仕込んだもろみを人吉球磨で蒸留して造られた焼酎を「球磨焼酎」(WTOのTRIPS協定に基づく世界ブランド)と呼びます。日本三大急流のひとつとして知られる、球磨川の水が美味しい焼酎を造り出すわけです。
 熊本県の人吉周辺は、江戸時代から有数の米どころ。それ故にぜいたくに米を使った米焼酎が普及しましたが、焼酎製造の起源は記録が無く、諸説が混沌と伝わっています。豊臣秀吉の朝鮮出兵のときに蒸留技術者が連れてこられたとか、室町時代の琉球との交易が始まりだとか。いずれにしても昔から球磨川を使った海外交易が盛んだったことが原因のようです。事実、古い球磨焼酎の造りには、沖縄の泡盛と日本酒の製法がミックスされているそうです。

球磨焼酎
宮崎の米焼酎

 宮崎県中央・西部では、米で本格焼酎が造られています。米焼酎は独特の風味と、お湯割りにすると甘みが出てくるのが特徴です。
 焼酎を生産する蔵元には規模の小さなところも多く、それだけに「こだわり」抜いて作られた逸品ばかりです。急激な温度変化が起こらず、もろみに負担をかけない昔ながらの木樽で生産を続ける蔵元や、米や水の選別に細やかな気配りをする蔵元など、それぞれに独自の創意や工夫があります。

宮崎の米焼酎

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個性派焼酎

黒糖焼酎

 鹿児島県奄美諸島特産の焼酎です。奄美群島(奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良島、与論島)だけに製造が認められています。原料はサトウキビから作られる黒糖(サトウキビの搾り汁を煮詰めて出来る砂糖)ですが、ラム酒との違いは米麹を使って蒸留されていることです。
 口当たりが柔らかく、独特の甘い香りとやさしい味わいが黒糖焼酎の特徴で、100種類以上の銘柄があります。

黒糖焼酎
粕取焼酎

 粕取焼酎は、日本酒を搾った後に残る酒粕に水を加え、醗酵させた醪(もろみ)に籾殻を混ぜて蒸留したもので、他にはない独特の味と香りが特徴です。銘醸地として有名な筑後地方(福岡)の粕取焼酎は「早苗饗(さなぶり)焼酎」とも呼ばれ、農作業後の骨休めには欠かせない飲み物でした。嗜好の変化などにより生産量は減少の一途を辿っていますが、一部の愛飲家からは現在も熱烈な支持を受けています。最近では吟醸粕等をそのまま蒸留する「吟醸粕取焼酎」と呼ばれるタイプも登場しています。

粕取焼酎
胡麻焼酎

 ゴマを原料とした九州でも希少な「胡麻焼酎」は、ブランデーを思わせる強い香りとまろやかな味が特徴です。
 ゴマは発酵力が弱いため、焼酎にするには独自の工夫が必要で、ウイスキーやブランデーのようにじっくりと熟成します。定番の焼酎だけでは物足りないという焼酎好きの間で人気が高まっています。

胡麻焼酎
そば焼酎

 ソバを原料に新しい味を造りだしたのが「そば焼酎」です。麦焼酎よりさらに軽い味わいとクセのない飲みやすさが持ち味です。
 ソバの実は熱処理された後、外皮を取り除かれ、仕込みに使われます。しかし、芋や麦などに比べ発酵力が弱いため、米や麦などと掛け合わせて造られることがほとんどです。そのため、焼酎蔵ごとの個性が豊富で、そば焼酎ファンは飲み比べを楽しむ傾向にあるようです。
 最近では、日本初のそば麹が開発されたことにより、ソバ100%のそば焼酎も生まれています。ソバの持つ独特な味わいをストレートに楽しめるようにもなりました。

そば焼酎

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WTOのTRIPS協定
1995年、WTO(World Trade Organization)世界貿易機関の創設に合わせて発効されたTRIPS(Agreement on Trade-Related Aspects of intellectual Property Rights)協定は、知的所有権の貿易関連の側面に関する条約のひとつで、この協定に指定されることにより原産地が保護されるというメリットがあります。つまり九州の「薩摩焼酎」「壱岐焼酎」「球磨焼酎」は原産地のみ商品ラベルに記載し名乗ることが許され、スコッチやバーボン、シャンパン、ボルドーなどと同様、権威ある名酒として世界ブランドとして承認されていることになります。
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