2024年03月31日

飼育は国内で2カ所のみ! “幻の豚“梅山豚とは?

「梅山豚」と書いて「メイシャントン」と読む。シワだらけの顔という個性的な姿から、西遊記の猪八戒のモデルになったとも伝えられる中国原産の豚である。現在、国内で飼育されているのは2カ所のみと言われる“幻の豚”だ。その牧場が熊本県にあると聞き訪ねてみた。

梅山豚が“幻”と呼ばれるその訳は・・・

顔にシワがあり、耳が垂れ、足首が白い。原種に近い姿の梅山豚

梅山豚を飼育しているのは『坂本牧場』。熊本県の中部、令和5年に国宝指定された通潤橋がある山都町にある。梅山豚は1972年、日中国交正常化の際にパンダに次いで寄贈されたのが、日本に導入された始まり。しかしその後、中国政府が梅山豚を輸出禁止品目に指定。脂身の多い肉質という特徴から市場流通も広がらず、現在では坂本牧場と茨城県にある牧場の2カ所のみが飼育を行っているといわれている。飼育頭数が限られているためスーパーなどの一般的な店頭に並ぶことはほとんどなく、生産者からの直接販売や一部の飲食店での提供のみに限られている。だがその美味しさが食通の間で評判となり、流通量の少なさから“幻の豚”と呼ばれている。坂本牧場の梅山豚は、過去には星野リゾートの星のや 京都の夕食のメインとして、生ソーセージは朝食として提供されていたこともあった。

抗生剤を使用しない独自の飼育法で本当に安全で健康な豚肉を

坂本牧場の坂本幸誠さん夫婦
敷地内を自由に歩き回る小豚たち

坂本牧場を訪れて印象的なのは、その開放的な雰囲気。豚舎には壁がなく、小豚たちは敷地内を自由に闊歩している。山や地面にある草、土を食べることで自己免疫力が上がり、健康に育つという。梅山豚の原種には顔にシワがあり、耳が大きく垂れ下がり、足首が白い毛で覆われているという特徴がある。そのような外見的特徴を持つ個体を親として、より原種に近い豚を増やす努力を続けている。現在の飼育頭数は約40頭。一般的な養豚では生後半年ほどで出荷となるが、ここでは出荷の基準となる体重100kgになるまで約1年〜1年半かけて育てる。出荷頭数も月に1〜2頭とごくわずかだ。

飼料として与えている納豆

飼育においては生まれた時から抗生剤を一切使用しない。梅山豚は多産な品種で、1回の出産で10頭前後を産むが、それぞれの個体が小さく生まれがちで生存率は決して高くない。寒さが厳しい冬場の出産はそれがより顕著となる。飼育頭数も限られているため、抗生剤の投与や豚舎の温度管理などで生存率を高めたくなるものだが、牧場主の坂本さんはあえてそれをしない。あくまでも自然の淘汰に任せ、生き残った個体のみを育てていく。「生かされた豚ではなく、生きる力を持った豚こそ、本当に健康な肉になる」という信念に則った飼育法だ。飼料として納豆を与えるのも免疫力を高めるため。以前、イノシシから感染したサルモネラ菌で頭数が激減した時に納豆菌を与えたところ、頭数減少に歯止めがかかったといい、それ以来、納豆に免疫を高める力があると知り食べさせているという。市販の配合飼料は抗生物質同様、生まれてから一切与えていない。

幻の豚の気になるその味は

梅山豚の生ソーセージ

“幻の豚”と聞いて気になるのはその味だが、まず特筆すべきは脂身の美味しさ。甘みがあり、くどさを感じないすっきりとした味わいだ。その背脂を塩やハーブに漬け込み熟成させたのが、イタリアでは生ハムを上回る高級食材とされる「ラルド」。パンに載せる、焼く、またはそのまま。これだけで最高の酒の肴となる。もちろんパスタなどとの相性も抜群。肉は豚特有の臭みが全くなく、旨みが濃厚。添加物を一切使用しない生ソーセージも、梅山豚が持つ甘み、旨みをダイレクトに感じることができる。購入は坂本牧場(TEL・FAX 0967-72-2747)への直接注文が基本。価格は部位によって異なるが、1kgで4,000円前後〜5,000円前後。生ソーセージが5本で1,200円。豚肉としては高価ではあるが、決して手の届かない価格ではなく、その希少性、美味しさを考えれば安いとさえ言える。また、生ソーセージのみ、山都町のふるさと納税返礼品でも手に入れることができる。