2024年03月28日

五島が育んだ希少価値の地鶏  五島しまさざなみ鶏に迫る!

五島地鶏しまさざなみの精肉イメージ(写真提供:五島さざなみ農園)

 長崎県五島列島の最大の島、福江島。椿咲く島であり、堂崎教会をはじめとする潜伏キリシタンの世界遺産構成資産を有する人気の観光地でもある。この島には幻と言っても決して大げさではない、希少な地鶏が飼育されている。その名は「五島地鶏しまさざなみ」。名前からして美しい海に囲まれた福江島にピッタリ。果たしてどんな地鶏で、誰が育てているのだろう。

かつては広く飼育されていた アメリカ原産の「さざなみ」

黒と白のまだら模様が特徴の五島地鶏しまさざなみ(写真提供:五島さざなみ農園)

 まずは「五島地鶏しまさざなみ」とはどんな地鶏なのか。交配によって生まれた品種で833系統のシャモの雄と横斑(おうはん)プリマスロックの雌がルーツだという。833系統シャモは全国の地鶏の交配種に選ばれているが、しまさざなみ鶏は横斑プリマスロックの外見的特徴を持っている。
 そもそもプリマスロックは1874年、アメリカのマサチューセッツ州プリマスで誕生した卵肉兼用種。アメリカ最古の品種と言われるドミニク、アメリカ原産の大型鶏ブラマ、そして中国原種のコーチンを交配させた。黒と白が横に並ぶ斑(まだら)の羽色で「横斑プリマスロック」と呼ばれる。雌よりも雄の方が白い色が強く出て、さざなみのように見える。日本にはプリマスロックの登場から12年後には導入され、戦前までは日本在来種として「さざなみ」の愛称で国内でも広く飼育されていたという。
 しかし、ブロイラーが台頭すると肉用鶏としての需要が落ち、産卵率を上げる品種改良で卵用鶏にしたものの、やはり別の改良品種のロードホーンに押されてしまった。「さざなみ」は表舞台から消えたかのように。しかし、因みに鹿児島の新品種「黒さつま鶏」もこの横斑プリマスロックの血を引く。そして五島でもその血は「五島地鶏しまさざなみ」として受け継がれていたのだった。

五島地鶏しまさざなみの精肉(写真提供:五島さざなみ農園)

五島の地鶏を絶やすことなく 独自の飼料で美味しいお肉に

法人経営になった五島さざなみ農園の養鶏場(写真提供:五島さざなみ農園)

 「五島地鶏しまさざなみ」は梶山茂・ひとみさん夫婦が営む「さざなみ農園」で育てられてきた。かつては他にも養鶏農家がいたが、飼料コストや高齢化などでわずか1軒が残り、島外の人には知られない「幻の地鶏」だった。同時にその美味さは知る人ぞ知るものでもあった。その秘密は配合飼料にあった。米、麦、大豆、魚粉、ひじきなどに五島特産の椿油とお茶を特別な配合で混ぜ合わせている。これを適切なタイミングで与えることでもっちりとした食感でジューシーな肉を生む。
 離島にたった1軒残った地鶏の農園をなくすわけにはいかない。そんな想いで農園の経営支援に乗り出したのが庄司鉄平さんだった。長崎市内で会社経営する庄司さんは2017年に「さざなみ農園」を法人化させ、「株式会社五島さざなみ農園」を設立。卵を孵化させ、鶏を健康的に育てる飼育プログラム、安全安心な鶏肉を提供する管理体制などを充実させていった。そこには「五島の素晴らしい地鶏をさらに立派に育て、多くの人に知ってもらいたい」という庄司さんの熱意がある。

社長の庄司鉄平さん(左)と現場管理者の森田良太郎さん(写真提供:五島さざなみ農園)

五島の地鶏の魅力を広げる 味な仲間の輪も広がる

五島地鶏しまさざなみを使った鍋料理例(写真提供:五島さざなみ農園)

 「五島地鶏しまさざなみ」の美味しさを明確に伝える。庄司さんは一般的な配合飼料を与えられた鶏と五島さざなみ農園の飼料を与えた鶏のうま味強度を比較。すると味の強さを表す遊離アミノ酸総量、うま味をもつグルタミン酸 、イノシン酸は後者が高い結果に。うま味強度は2倍を示し、公式サイトに表示している。肉の繊維質が細かく、適度な噛み応え食べ応えがある。良質な脂でヘルシーで、なおかつ満足度が高く、旨みの層が豊かで上品な味わい。それが五島地鶏しまさざなみだという。
 現在は自社通販やふるさと納税の他、飲食店での取り扱い店舗を増やしている。九州を中心に関東関西にも出荷し、焼き鳥・和食にとどまらずイタリアンやフレンチの店からも引き合いがある。さらに五島でも老舗水産加工メーカーが鶏五目、ハムのテリーヌ、五目ハンバーグなどの加工品をこの地鶏で開発。五島移住者が立ち上げた通販会社がレトルトの地鶏入りカレーを売り出すなど、確実に五島地鶏しまさざなみの味の輪が広がっている。

五島さざなみ農園

崎県五島市堤町2289-1

電話 0959-74-3785

営業時間 8:00~17:00

休業日 土日祝