おいしい島 九州

柚子の里で育つ柚子と唐辛子で 熟成させる無添加の「柚子胡椒」

柚木の柚子胡椒〈熊本県山都町〉

九州のほぼ中央に位置する熊本県上益城郡山都町。国道218号線から細い山道を北に進み、
しばらくすると山間の斜面に家々が重なり合うように立つ小さな集落が見えてきます。柚子の産地である柚木(ゆのき)集落は、柚子にまつわる平安時代の言い伝えを残し、地名に柚の名を持つ柚子の産地。この地で農薬を使わずに栽培した柚子や唐辛子で、柚子胡椒を作る本田農園の本田忠徳さんを訪ねました。

平安時代の言い伝えが残る柚子の里の名の由来

「1200年ほど前の平安時代、真言宗の開祖である弘法大師(空海)がこの地に立ち寄られたと言い伝えられています」と、本田農園の本田忠徳さん。その時、弘法大師は〝柚子で生計を立てるように〟と言われ、柚の木に大黒様を彫って残されたのだと続けます。そして「それが柚木の地名の始まりです」と、自らの住む集落の名の由来を教えてくれます。その大黒様の版木は今も大切に保管されており、柚木大黒天」として地元の人々に慕われているのだそう。 また、江戸時代中期の肥後(熊本)藩が行った産業振興政策で、この地は柚子を栽培し、藩に納めるようにと定められたという記録もあるとのこと。いずれにしても、村の名と主作物が同じ場所であるのは珍しいのではないかと、本田さんは誇らしげです。

柚木集落

柚木集落で古くから栽培されていた柚子

本田さんの園地には、樹齢100年の柚子の木もあるそうです

柚子の皮を使う料理を見て農薬を使わない栽培を決心

時代が下って1967年頃。柚木集落では、集落全体で柚子の栽培に取り組むことになりました。15軒ほどが集まり、山から柚子の穂木を取って苗作りから栽培を始めたものの、7〜8年ほどは実がならなかったと言います。枝の仕立て方など、試行錯誤を重ねながらの栽培が続きました。 そんな中、京都などの高級料亭で使われている柚子を見る機会があり、本田さんは、農薬に対する意識が変わったと言います。「柚子の皮をほんの少しだけ削って茶碗蒸しに入れてありました。それでもふんわりと香りが立つ。こんな使い方をされるのなら、皮に農薬をかけてはいけないと思ったんです」と本田さん。
ほどなく、山都町で第1回となる全国有機農業大会が開催されました。そこで本田さんは様々な人と知り合い、改めて有機無農薬栽培への思いを強くしたと言います。夏場は柚子の木の下草を刈る作業に追われる日々が続きますが、本田さんは、「安心して食べてもらえる安全な作物を作ることが、食を作るものの役割だと思っています」ときっぱり。
しかし、農薬を使用しない場合、花の時期に虫がつけた傷で外見が悪くなると商品価値が落ちてしまいます。見た目が多少悪くても柚子にはビタミンCを豊富に含んでいる柑橘。果汁は少量であるため、皮ごと食べてもらいたいと考えるようになったそうです。そこで、本田さんは青果として出荷するのは1割とし、9割を加工用とすることに。

加工所には柚子の爽やかな香りが漂っています

熟す前の青柚子

熟した黄柚子

化学肥料を使用せず無農薬栽培した柚子と唐辛子を独自の配合で柚子胡椒に

「柚木の柚子は、皮が厚く、香りの高さが特徴です」と胸を張る本田さん。家族でさまざまな加工を試み、行き着いたのが、柚子と唐辛子、ヒマラヤの岩塩を独自に配合して熟成させる柚子胡椒です。1975年頃には商品化に成功。食品添加物なども使用せず、熟成させたものを瓶詰めした柚子胡椒は、料理の味を引き立てる香味として徐々に人気が出てきたそうです。 柚子胡椒の胡椒とは、九州では昔から唐辛子を指します。本田さんが柚子胡椒に用いる唐辛子は、ヤツフサやタカノツメなど数種類を栽培し、ブレンドされているのが特徴です。仕込んで1週間ほど寝かせ、塩分が馴染んできます。 「青」は、青柚子と青唐辛子で仕込んだもの。辛味が強く、フレッシュな柚子の風味がします。うどんやそば、味噌汁といったつゆを味わう料理に、少量加えるだけで華やかな風味をもたらします。 「赤」は、熟した黄柚子と、赤唐辛子を配合。まろやかな味わいで、刺身やステーキなど、素材を楽しみたい料理に添えるのがおすすめです。鶏肉料理にも良く合うと本田さん。特に決まった使い方はないため、リピーターなどからおいしい使い方を教えてもらうことも多いといいます。「例えば、レタスの上に生ハム、柚子胡椒を乗せ、巻いて食べると食欲が出てくるとか。サーモンの刺身に付けるとか。ご飯にかけて食べる人も。人によっていろいろに楽しんでもらっているようです」。

原材料はシンプル。「家庭でも作れますよ」と本田さん

用途に合わせて使い分けるのがツウ

「青」は味噌汁に合わせて

INFORMATION

柚木こしょう

柚子の栽培農家が作る柚子胡椒。「赤」と「青」があり、サイズはそれぞれに「大/60g800円」「小/40g600円」が用意されています。ほか、柚子を使った加工品も多数揃えています。

有限会社本田農園
熊本県上益城郡山都町柚木806
TEL.0967-74-0055
https://honda-nouen.com