福岡県福津市の津屋崎は玄界灘に面したのどかなエリア。「光の道」でも有名な宮地嶽神社が鎮座する町には、モノづくりの工房が点在しています。その中でも全国的に人気なのが「津屋崎人形」。特に、人形の「ごん太」はお店やネットでも即完売のレアアイテムです。いまや日本で一軒、津屋崎人形の工房を訪ねてみました!
江戸時代から昭和初期にかけて塩田で栄えた津屋崎界隈。潮風そよぐ津屋崎海岸沿いの一角には千軒の家がひしめくように賑わっていたことから、「津屋崎千軒」と呼ばれ、酒造や薬局など数々の老舗の商店が立ち並んでいます。また、津屋崎では、海と山に囲まれた豊かな自然を生かし、古くから多くの職人さんが腕をふるってきました。現在でも陶芸や木工、革製品などモノづくりに携わる人が多く、さまざまなジャンルの工房が点在しています。明治期の建物や古民家を利用したショップ、ギャラリーも。散策にもぴったりです。
レトロな街並みを眺めながら5分ほど歩くと、「筑前津屋崎人形巧房」の前に掲げられた『土人形』の看板が見えてきます。江戸時代後期の安永6年(1777年)に誕生した工房で、現在、津屋崎人形をつくっているのはここ一軒だけだそうです。創業から240年以上、津屋崎のモノづくりの歴史とともに歩んできたといっても過言ではありません。工房をたずねると、津屋崎人形師の7代目・原田誠さんと、その息子さんで8代目になる翔平さんが迎えてくれました。
津屋崎人形のはじまりは、生活土器(雑器)から。当初は、茶葉などを炒る焙烙(ほうろく)などをつくっていたそうですが、やがて土人形を製作するようになったそうです。博多人形の始祖といわれる「古博多人形」の流れをくむ津屋崎人形は、土の温もりを感じる素朴な風合いと、原色を用いたあざやかな彩色が特徴。ころんと丸みのあるフォルム、動物や子どもの愛嬌たっぷりの表情は、懐かしいのにどこか新しく、何世紀たっても色あせないデザインのパワーを感じます。
津屋崎人形といっても、土鈴や干支の縁起物、節句人形、津屋崎祇園山笠の飾りまで、とにかくバラエティゆたか。明治や大正時代の型も現存しているから、その気になれば昔流行った人形も再現できます。そんな数ある津屋崎人形の中でも、ひそかなブームを巻き起こしているのが「ごん太」です。
明治時代に生まれたごん太。当時は全身に米粉を塗り、赤ちゃんのおしゃぶりとして使われていたそうです。まっすぐに立っているようで、アンバランスなボディ。ぽっこりと大きな頭。微笑んでいるのか、悟りでも開いているのか、なんとも言えないシュールな表情。見ているうちにじわっと面白さがこみあげてきます。エモい!エモかわいすぎです!!
津屋崎人形でもっとも古い歴史をもつのが、ふくろうをかたどった「モマ笛」。地元ではふくろうのことを『モマ』と呼び、先を見通す力がある生きものとして親しまれています。モマ笛は津屋崎人形が作られ始めた安政年間からつくられ、宮地嶽神社の縁起物としてもおなじみ。昔は、お年寄りが食べ物を喉につまらせないようにと、食事前に吹いて気道を広げる道具として使われていたそうです。実際に吹いてみると『ホーホーホー』とやさしい笛の音色が響きます。モマ笛はオカリナのようなもので、土笛の空洞の大きさによって音の高低が変わるそうです。
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