東京−熊本市−山鹿温泉−日奈久温泉と舞台は主人公二人の男女と共に移る。「山鹿の町に入った。……両側が旅宿ばかりで、うしろに白い湯気が高く上っていた。……」
「昏れたばかりの海の上には遠くに島の灯か一列に瞬いていた。天草島だった。風と一緒に汐の匂いが鼻に入ってくる。」——こんな舞台が疑惑の主人公をつつむ。
「点と線」に描かれた香椎海岸及び二つの香椎駅(宮地嶽線とJR)周辺の街のあり方は一変してしまったが、駅の場所はそのまま。
小説を読み直しながら探訪してみよう。松本清張の処女長編にあたり、’57年から翌年にかけて『旅』に連載された作品。本書と同時期に「眼の壁」「ゼロの焦点」なども執筆されている。時刻表のトリックを使った「点と線」は、爆発的な売れ行きを示し、「清張ブーム」と呼ばれる現象にまでなった。清張は動機を重視する「社会派推理小説」と呼ばれる多くの作品を発表した。この作品の冒頭にある男女の死体発見場所が香椎である。
内牧温泉は歴史文化No.5参照。
山鹿温泉は歴史文化No.7参照。