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【セレクション】九州ゆかりの文化人をしのぶ記念館で作品の舞台にタイムスリップ!

「作家の頭の中をのぞいてみたい」と思ったことはありませんか?九州には、100年以上も読み継がれている文学作品や、映画やドラマ化された小説、誰もが一度は聴いたことがある歌など、数々の名作が生まれるきっかけとなったスポットがいっぱい!今回は、ゆかりの場所を巡りながら、その創作の起源を探ります。

九州の記念館・文化スポット①「松本清張記念館」(福岡県北九州市)

ずらりと並んだ約700冊の著書はかなりの迫力。創作へのすさまじい熱を感じます。
小倉城や八坂神社など、北九州市民から愛されるその場所に、今尚多くの熱心なファンを持つ作家、松本清張の記念館があります。作家が生まれ育った北九州は、芥川賞受賞作の「或る『小倉日記』伝」をはじめたびたび作品に登場するため、ファンなら一度は訪れておきたい街です。
写真提供 北九州市立松本清張記念館
推理小説や歴史小説、ノンフィクション、現代史や古代史など、分野にとらわれない清張作品の数々をジャンルごとに紹介した「松本清張全仕事」のコーナーでは、映像化された作品のダイジェスト映像なども観られます。 2階には、松本清張が亡くなった当時そのままの形で記念館に再現された「思索と創作の城」が。書きかけの原稿、愛用の眼鏡、煙草の焼け焦げのついた敷物、積み上げられた資料…今もそこで執筆活動が行われているような生々しい書斎だけでなく、まるで迷路のような増改築を重ねた2階建ての書庫、打ち合わせを行った応接間など、東京・杉並区の自宅を再現したその光景は、見ているだけで胸が高鳴ります。 さらに、小倉城の石垣を臨める中庭に面した「静聴カフェ」では、四季折々の移ろいを感じながら、オリジナルメニューを堪能することができます。特別企画展開催時には、コラボメニューなども登場することも。作家の息遣いが感じられるようなこの場所なら、なんだかいいアイデアが浮かびそう!
特別企画展「E・A・ポーと松本清張」開催中の限定コラボメニュー「黒カレーの渦に呑まれて」(850円)。サラダに盛り付けられた人や魚の形のチーズをカレーの大渦巻に投入してぱくり。
E・A・ポーの世界を表現した特設コーナーのみ撮影可能。この機会にぜひ。 ※特別企画展「E・A・ポーと松本清張」2019年11月15日~2020年3月1日
松本清張記念館

福岡県北九州市小倉北区城内2-3

http://www.kid.ne.jp/seicho/html/

九州の記念館・文化スポット②「森鴎外旧宅」(福岡県北九州市)

『舞姫』『阿部一族』『高瀬舟』など、数々の名作を残した文豪森鷗外は、代々医者である家系に生まれ、軍医としてだけでなく、翻訳・小説・随筆・歴史小説など文学界でも活躍した人物。幼少から神童と呼ばれるほど聡明だった鷗外は、なんと東京医学校予科(現在の東京大学医学部)に入学する際、規定年齢に足りずに生まれ年をサバ読んだのだとか。天才って本当にいるんですね…
今回訪ねた「森鷗外旧居」は、鷗外が1899年(明治32)、37歳の時に軍医として赴任し、約3年間の滞在中の前半を過ごした場所。東京に帰ってから書いた小説「鶏」は、この家を舞台にしているそう。 旧居内には、家系図や年表、著書や小説『渋江抽斎』が掲載された大阪毎日新聞の実物、遺言書(複製)、飛行機発明家の矢頭良一の早逝を悼んで遺族に贈った「天馬行空」の書など、ゆかりの品がいっぱい。音声ガイダンスもあり、改めて鷗外の活躍を振り返ることができます。
友人に宛てた手紙に「公私種々ノ事業ノ為メニ(中略)少シモ退屈ト云コトヲ知ラズ」と記すほど充実していた、鷗外の小倉での日々。周辺には森鷗外からその名がついた、水鳥が翼を大きく広げた美しい形の鴎外橋や、橋の西側に建つ「森鷗外文学記念碑」などもあるので、街歩きの際にチェックしてみては?
森鴎外旧居

福岡県北九州市小倉北区鍛冶町1丁目7-2

https://www.gururich-kitaq.com/spot/ogai-mori-former-residence

九州の記念館・文化スポット③「草枕交流館・前田家別邸」(熊本県玉名市)

作家夏目漱石が教師として赴任し、新婚時代を過ごした熊本。住居のあった熊本市内だけではなく、名作にゆかりの深い場所がもうひとつあるんです。
それが、あの名作『草枕』の舞台となった熊本県玉名市にある「前田家別邸」です。1897年(明治30)の暮れ、当時第五高等学校(現在の熊本大学)教授だった漱石は、同僚と共にお正月をゆっくりと過ごすためにこの別邸を訪れます。 別邸の主は、「城下(熊本)まで、他人の土地は踏まずともいける」というほどの栄華を誇った前田家の当主であり、第1回衆議院議員も務めた前田案山子(まえだかがし)。自由民俗運動家としても活躍し、当時熊本市街から最も近い温泉地だった小天温泉(おあまおんせん)が湧くこの別邸は、温泉宿としても解放されていたそうです。
1906年(明治39)に発表された『草枕』は、別邸滞在中の出来事がモデルとなっていて、作中で前田家別邸は「那古井の宿」、前田家は「志保田家」、案山子が「老隠居」、次女ツナが「那美さん」として登場します。主人公が写生に行く「鏡が池」も実在。本館と離れの一部はなくなり、母屋は建て替えられていますが、漱石が宿泊した離れの6畳間と浴場が現存しています。 『草枕』の中でも印象的な、湯煙の中に「那美さん」が現れるシーンは、漱石の実体験からきているのだそう。舞台となった浴場の階段から、今にも「那美さん」が降りてきそうです。
こちらの離れは、『草枕』の舞台としてだけでなく、飛行機アニメの名作ゆかりの地としてもファンの間では評判なのだとか。 前田家別邸は自由見学となっていますので、訪問する前に近くにある「草枕交流館」に立ち寄って、展示資料や上映案内などを見ていくのがベター。明治期の日本のみならず中国の歴史にまで関わっている前田家一族の数奇な運命に、想像が膨らみます。
草枕交流館・前田家別邸

熊本県玉名市天水町小天735-1

http://www.kusamakura.jp/

九州の記念館・文化スポット④「北原白秋生家・記念館」(福岡県柳川市)

北原白秋の名前はもちろん知っているけれど、改めて作品と言われると…という方もいらっしゃるかもしれません。 けれど、例えばテレビでアナウンサーが発音練習の時に使用している「あめんぼ赤いなアイウエオ…」やふと口ずさんでしまう「待ちぼうけ~待ちぼうけ~♪」「あめあめふれふれ母さんが…」などなど、彼の詩歌は令和の時代になっても、面白いほどなじみ深いものなんです。 そんな彼の生まれ故郷は福岡県柳川市。代々屋号を「油屋」「古問屋」と称する海産物問屋として栄え、北原白秋の父の代からはこの地方で有数の酒造業者に。現在、その立派な母屋の中を見学することができます。
客間や勘定部屋、仏間など、当時の生活の様子がよく分かる母屋では、季節や企画にあわせて展示替えをするそう。2月~4月頃までは、このあたりのひな祭りの名物「さげもん」でとても華やか。
土間には酒造を営んでいた際の品や、ご縁のある作家、俳優、映画監督など「えっ、この人も来たの!?」と思わず声が出るほど、そうそうたる方のサインがずらり。北原白秋の熱心なファンで何度も訪れる方や、インスピレーションを求めてやってくる歌手の方などもいらっしゃるのだとか。
実は、当時約4000坪もあったお屋敷は、1901年(明治34年)白秋が16歳の時、沖端の大火に類焼し、残ったのはこちらの母屋と穀倉のみ。火事の後、白秋は詩人として生きるために上京し、1928年(昭和3)43歳の時に20年ぶりに柳川へ帰郷した際には、熱烈な歓迎を受けたそうです
そして、白秋の歌に出てくるざぼんやからたちの木がある中庭を抜けると、立派な記念館が。作品を育んだ柳川の文化や歴史、2階には出版作品や直筆の書、ビデオシアターなどもあり、北原白秋と柳川の強い結びつきを知ることができます。
からたちの木。向こうには白秋の書斎が見えます。
毎年白秋の誕生日である1月25日には生誕祭が行われ、パレードや合唱などが盛大に行われるのだそう。白秋が今も地元の方をはじめ、多くの人に愛され、慕われていることがひしひしと伝わってくる場所でした。
北原白秋生家・記念館

福岡県柳川市沖端町55-1

http://www.hakushu.or.jp/

白秋も愛した、ふわふわでジューシィなあの味を堪能!

柳川に足を踏み入れたならば、やっぱり食べておきたいのが「鰻」!柳川の誇る味であり、市内だけでも年間150万匹以上もの鰻が食べられているのだとか。北原白秋生家・記念館から西鉄柳川駅周辺だけで、20店舗以上あるうなぎ屋さんの中から、今回は、北原白秋生家・記念館からすぐのうなぎ料理の老舗、約250年の歴史を持つ「皿屋福柳」さんへ。 名物のせいろ蒸しは、香ばしく焼き上げた鰻と、ふっくらもちもちのご飯に絶品たれがたっぷり。鰻の肝入りのお吸い物や香の物、コーヒー付き(2,750円)。広々とした店内でゆったりとくつろげます。テイクアウト専用のうなぎむすび(2個550円)、うなぎ骨せんべい(1袋300円)はお土産にも。
皿屋 福柳

福岡県柳川市沖端町29-1

http://www.saraya-fukuryu.com/index.html

今度の旅は、本を片手に作品の世界にどっぷり浸ってみては?

文化人ゆかりの地を巡っていると、なんだか自分まで文学作品の登場人物になれたような、不思議な気持ちになります。思えば、最近流行りのテレビドラマやアニメのロケ地などを巡る「聖地巡礼」にも通じるものなのかも。今度の旅は、文庫本や詩集を持って、作品の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか?

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