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全国の38%が熊本に! 装飾古墳の魅力が分かる「熊本県立装飾古墳館」に行って来た!

3世紀中頃から7世紀中頃にかけて、全国に20万基以上築かれた古墳の中で、約660基しかない装飾古墳。その3割近い195基が熊本県にあり、特に県北部を流れる菊池川の流域に117基と集中しています。そんな装飾古墳のふるさと、菊池川流域にある熊本県立装飾古墳館を訪ねました。

全国で唯一! 装飾古墳をテーマにした博物館

熊本県立装飾古墳館の外観。上空から見ると前方後円墳の形をしています

熊本県立装飾古墳館は全国で唯一、装飾古墳専門の博物館です。前方後円墳を模したスタイリッシュな建物は、世界的な建築家・安藤忠雄氏によって設計されました。装飾古墳とは、石室などに壁画に彩色や彫刻による文様を施した古墳のこと。古墳時代の4世紀後半から少しずつ造られるようになり、横穴式石室が盛んに築かれた6世紀から7世紀にかけて九州北部を中心に広がったと考えられています。

菊池川流域の出土品を展示する常設展示室

館内には、菊池川流域で先土器時代から中世にかけて出土した遺物などを展示する常設展示室、菊池川流域に広がる“肥後古代の森"の5つの地区の史跡を紹介した第二常設展示室、菊池川流域の舟形石棺を展示した屋外展示場などがあります。さまざまなテーマの企画展を行う企画展示室では、2021年5月9日まで「県内遺跡発掘速報展〜こぎゃんとが出た!復興への足跡〜」を開催中。熊本地震と2020年7月豪雨で被災した文化財に焦点を当て、歴史的な魅力を紹介しています。

12基の装飾古墳を実物大で精巧に再現!

装飾古墳12基のレプリカが展示されている装飾古墳室

中でも注目したいのが装飾古墳室。熊本県内外の代表的な装飾古墳12基の石室や石棺を忠実に再現した実物大レプリカが展示されています。史跡保護の観点から通常は見学できない装飾古墳も多いそうなので、本物そっくりの精巧な模型で装飾古墳についてじっくり学べる絶好の場所です。
装飾古墳の彩色に使われた顔料は、赤色、白色、灰色、緑色、黒色2種の計6色。例えば、赤色は鉄分を多く含む阿蘇黄土を焼いた“ベンガラ"、黒色は粉末状にした鉄鉱石や木炭、黄色は酸化鉄を含んだ黄色の粘土が使用されました。「菊池川流域に装飾古墳が多い理由は、赤色の顔料“ベンガラ"の材料である阿蘇黄土が手に入りやすかったからだと考えられています。阿蘇火山によってもたらされた自然の恵みです」と、熊本県立装飾古墳館のスタッフが教えてくれました。

国指定史跡「チブサン古墳」のレプリカ

最も広く知られている装飾古墳が、山鹿市にある国指定史跡の「チブサン古墳」。実物は全長44mの前方後円墳で、6世紀前半頃に造られたとされています。石屋形の正面には赤・白・黒の色使いで大胆に塗り分けられた三角形と円形の文様が描かれています。チブサン古墳の名前の由来は、二つの円形が女性の乳房のように見えるからだとか。昔から地元の人々は乳房に見立てて“乳房さん(チブサン)"と呼び、江戸時代以降は“乳の神様"として信仰の対象だったそうです。
向かって右側の壁には、王冠を被り両手を広げた人物が描かれています。当時の権力者で、この古墳の主ではないかと考えられています。
チブサン古墳は、実物を見学できる数少ない装飾古墳の一つ。熊本県立装飾古墳館から車で約10分の場所にある山鹿市立博物館では、本物のチブサン古墳の一般公開を行っています。開館日の1日2回、10時・14時、要予約(2021年2月現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため見学休止中)。

国指定史跡「弁慶ヶ穴古墳」のレプリカ

同じく山鹿市にある国指定史跡「弁慶ヶ穴古墳」は、チブサン古墳より少し遅い6世紀終わり頃に造られた円墳です。石室の壮大さや装飾の鮮やかさは熊本県内屈指で、石室には人物やゴンドラ形の船、馬、鳥、太陽などが描かれています。ゴンドラ形の船は、死後の世界“黄泉(よみ)の国"へ向かう船で、棺らしきものが積まれています。古代の人々は、この世で死ぬことはあの世に生まれ変わることだと固く信じていました。そのため弁慶ヶ穴古墳は、当時の人々の死後の世界観が表現された装飾古墳として知られています。
あの世での生活のために大きな古墳を築き、永遠に壊れないよう石積みの堅固な部屋を作り、少しでも部屋を美しく飾ろうと絵を描いたり文様を掘ったりしたという古代の人々。菊池川流域の装飾古墳には、人物や馬、舟などの絵が多く描かれているのが特徴だそうです。古代人がどんなことを考えながら、これらの絵や文様を描いたのか。約1500年前に思いを馳せながら見学すると楽しみが増しますね。
装飾古墳室の室内には、装身具や鏡、埴輪、土器など、熊本県内の主要な古墳から出土した遺物も展示されています。

古代人の装身具・勾玉づくり体験に挑戦!

「勾玉づくり体験」の制作風景

館内では、古代人の暮らしを体感できるさまざまな体験を実施しています。今回は、古代人の装身具だった勾玉を作る体験に挑戦。滑石(かっせき)と呼ばれる軟らかい天然石を、4種類の紙やすりで順番に削っていきます。滑石は白・ピンク・黒の3色から選択可能です。

完成した勾玉(写真はピンク)。紐を通すとアクセサリーに

ひたすら削り続け、表面が丸みを帯びてピカピカになったら完成! 仕上げに新聞紙やハンドクリームなどで磨くとさらにツヤが出るそうですよ。軟らかい石のため、落としたりぶつけたりすると破損の恐れがあるので扱いに注意しましょう。勾玉づくり体験は土・日曜、祝日のみ(イベント等の開催日を除く)、要予約。体験料は材料費200円〜300円、所要時間90分。

周囲を散策しながら、国指定史跡の岩原古墳群を見学

屋外スローブからの眺め。丸い丘のように見えるのが円墳です

熊本県立装飾古墳館の周辺には大小13基の古墳が集まる国指定史跡・岩原(いわばる)古墳群があります。建物の屋外スローブや展望所からは、緑豊かな周囲の風景を一望。岩原古墳群も見渡せます。
中でも前方後円墳の岩原双子塚古墳は、全長107mと菊池川流域でも最大級の規模を誇ります。約1500年前にこの一帯を治めていた権力者の墓で、前方後円墳を囲むように点在する円墳がその一族や家来の墓だと考えられています。

全長107mの岩原双子塚古墳。一帯は古墳公園として整備されています

菊池川流域は古くから稲作が盛んな地域で、平成29年には“米作り、二千年にわたる大地の記憶 〜菊池川流域「今昔『水稲』物語」〜"として日本遺産に認定されました。この岩原双子塚古墳も、米作りで得た財力で築造されたといわれています。
「実は岩原双子塚古墳をはじめ、一帯のほとんどの古墳の主体部は、文化財保護のため未調査なんです。将来、調査技術が発達したら発掘しなくても内部の様子が分かるようになるかもしれませんね」とスタッフ。もしかしたら色鮮やかな装飾が残る装飾古墳という可能性も。大いに夢とロマンがありますね。

熊本県立装飾古墳館

熊本県山鹿市鹿央町岩原3085

https://kofunkan.pref.kumamoto.jp/

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