3つの神社に詣でる三社参りは、九州地方や中国地方など西日本の一部の地域に根付いた風習だといわれています。熊本市内の三社参りといえば、加藤神社、高橋稲荷神社、別所琴平神社の3つ。「一に清正公、二に高橋稲荷、三が別所のこんぴらさん」と謳われる由緒ある神社を巡ってみました。
最初に訪れたのは、熊本城の城郭の一角に鎮座する加藤神社。戦国時代の武将として知られ、難攻不落の堅城と名高い熊本城を築城した加藤清正を祀る神社です。領内の治水・利水事業に尽力し、熊本の発展の礎を築いた加藤清正は“土木の神様"とも呼ばれ、今なお熊本県民に“清正公(せいしょこ)さん"の愛称で広く親しまれています。
明治4(1871)年、神仏分離令に伴い、現在の熊本城本丸と宇土櫓の間に錦山神社として創建されたのが始まり。明治政府によって陸軍の部隊である鎮西鎮台(後の熊本鎮台)が熊本城に置かれたため、明治7(1875)年、近くの京町に遷宮されました。その後、明治42(1909)年に加藤神社の名に改称されました。さらに昭和37(1962)年、現在の熊本城本丸に遷宮されて現在に至ります。
令和3年に創建150年、令和4年に城内への再遷宮から60年という節目を迎え、令和大造営や和魂祭などの奉祝事業が予定されています。
加藤神社の境内は熊本城近望の名所として知られ、復旧工事が完了した大天守と小天守が一望できます。威風堂々たる天守閣と“武者返し"と呼ばれる石垣の姿は圧巻です。令和3年4月26日からは、熊本城特別公開第3弾として天守閣内部の一般公開が始まるので、加藤神社参拝と併せて訪れてみてはいかがでしょう。
また、神社入り口からは、大天守・小天守に続く“第三の天守"と呼ばれる国指定重要文化財の宇土櫓も見ることができます。明治10(1877)年の西南戦争で熊本城が炎上した際にも焼失を免れた宇土櫓は、江戸時代初期の築城当時の姿を残す唯一の多重櫓です。熊本地震で倒壊は免れたものの、建物全体の傾きや石垣の変形が見られることから、今後は全解体した上で、大規模な復旧作業が行われる予定です。
境内には、加藤清正ゆかりの史跡も数多く残されています。なかでも、清正公お手植えの樹は、約400年前の築城の際に清正自らが植えたと伝わる銀杏です。ほかにも、文禄・慶長の役で武功を挙げた清正が記念に持ち帰ったとされる太鼓橋や、文禄・慶長の役の出兵拠点となった名護屋城跡(佐賀県唐津市)から明治時代に移された清正公の旗立石、肥後三代手水鉢(ちょうずばち)の一つで清正の重臣の屋敷で使われていた大手水鉢などを見ることができます。
令和2年には、熊本地震で境内に崩落した石垣の中から観音菩薩が掘られた石が発見されて話題に。文化財である熊本城の石垣はすべて復元する必要があるため、石のレプリカが作成され、“復興石垣"として神社内に展示されています。
続いて向かったのは、日本稲荷五社の一つに数えられる高橋稲荷神社。閑静な住宅街を進むと、華やかで堂々たる朱塗りの楼門が姿を現します。明応5(1496)年、隈本城(後の熊本城)の城主・鹿子木親員(かのこぎちかがず、後の寂心)が出城である上代城(現在の熊本市西区上代)を築いた際、守り神として京都の伏見稲荷神社の分霊を勧請して祀ったのが高橋稲荷神社の始まりです。
高橋稲荷神社は小高い城山の斜面を利用して築かれており、高台にある社殿からは周囲の町並みや山々、遠方には有明海や雲仙普賢岳まで見渡せます。拝殿に参拝後、斜面の参拝路を進むと末社が次々と出現。諸業繁栄(建築・芸道・鉄工・武道)の神である玉釼大明神、五穀豊穣や交通安全、学業成就などの神である源策大明神、諸病気除災や悪疫除災などの神である元吉大明神などに参拝できます。拝殿だけでなく、末社にも併せて参拝すると、より御利益がありそうですね。
商売繁盛の神様として全国的に有名な高橋稲荷神社。毎年2月に開催される初午(はつうま)大祭は約20万人の人出で賑わいます。呼び物は、7回に分けて行われる福餅まき。境内の広場は縁起の良い紅白餅を拾う参拝客で埋め尽くされます。また、福かきや破魔矢など、良運を引き寄せる縁起物を求めて長蛇の列もできます。
最後に訪れたのは300年以上の歴史を持つ別所琴平神社。“ことをひらく"開運神社として、古くから地域で親しまれています。創建は江戸時代中期の正徳年間。讃岐国(香川県)の金刀比羅宮から分霊を勧請したのが始まりと伝わります。金刀比羅宮の神・金比羅大権現は、古くから海神として崇敬を集めてきたことから、現在でも海運業の参拝者も多いそうです。明治時代初期の神仏分離により、大国主神の幸魂(さきみたま)・奇魂(くしみたま)とされる大物主大神が主祭神になりました。
古来、金比羅大権現の化身とされてきた天狗。その信仰は、江戸時代に入り全国に広まりました。別所琴平神社の拝殿では、江戸時代に奉納されたという天狗のお面が参拝者を見守っています。赤い顔の大天狗様は神様の化身となって山で遭難した人を、緑の烏天狗様は空を飛び、海で遭難した人を助ける。そんな言い伝えがあるそうです。天狗のお面は30年に一度取り替えられ、現在のお面は10代目。制作には大変な技術と労力を要するそうで、地元の職人が代々その技を継承しています。社務所には天狗のお守りや絵馬も販売されています。
令和2年1月に天狗のイラスト付き御朱印が登場し、広く注目を集めるようになった別所琴平神社。拝殿に奉納されている大天狗様と烏天狗様のお面をモチーフにしたイラストを神職が御朱印に手描きしたところ、その豊かな色彩が「インスタ映えする」と話題に。全国から依頼が舞い込むようになり、書道の講師など約10名のスタッフにより、御朱印チームが結成されました。四季の風景を取り入れ、毎月デザインを変更するなど工夫が凝らされており、月ごとにコレクションした人も多かったそうです。あまりに多くの依頼が殺到したため、令和2年12月末で天狗のイラスト付き御朱印の受付は一旦終了しています。
現在も御朱印チームによる達筆な御朱印は健在。定番から月替わりまでバリエーション豊富にそろうので、どれを選ぶか迷ってしまいそうです。また、誕生日や結婚など、お祝いや記念日のメッセージにも対応してくれるので、社務所で気軽に相談してみましょう。別所琴平神社のFacebookやInstagramにも御朱印が紹介されているので、気になる人はチェックしてみて。
令和2年6月には、境内に参拝客の憩いの場として石庭がオープン。縁側に腰掛けて枯山水の庭園を眺めていると、町の喧騒など忘れてしまうほど、心が穏やかになります。今後は参拝者へ抹茶を振る舞ったり、写経体験や座禅体験を実施したりと、さまざまな企画を考案中だそうです。
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