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鹿児島名物!「あぢもり」の黒豚しゃぶしゃぶは生卵で食べる!?

鹿児島の食の代表格・黒豚。そして、その美味しい食べ方と言えばしゃぶしゃぶを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。鹿児島へ来たら、やっぱり食べたいですよね。

黒豚を食べられる店は数々ありますが、中でもまず訪れたいのは「黒豚料理 あぢもり」。昭和53年から鹿児島市の繁華街・天文館にお店を構える黒豚料理専門店です。今では一般的な豚肉をしゃぶしゃぶで食べるということを初めて提案した、黒豚しゃぶしゃぶ発祥のお店として知られています。
地元のタクシーの運転手さんに「黒豚のおすすめ店は?」と聞くと、10人中9人はあぢもりの名前を挙げると言われているそうですよ。

一度は消えかけた!? 知られざる黒豚の歴史

実は黒豚は、世の中から消えかかっていた時代があったってご存知でしたか? 戦国時代にも記録が残っているほど豚がよく食べられていた鹿児島。その昔は黒豚はごく一般的なものでした。高度経済成長期のあたりでは東京などでも鹿児島の黒豚は人気があったそうです。

ところが70年代に入り黒豚より多産で飼育期間が短い白豚が全国で重宝され始めて、鹿児島でも「白豚を導入する」「いやいや鹿児島は黒豚だ」と大激論が勃発。最終的に当時の金丸三郎鹿児島県知事が「黒豚は鹿児島の宝! だから残す!」と決着をつけたのですが、この黒白論争は3~4年の間も続きます。その間、黒豚は影に追いやられて生産量は豚全体のわずか2%と激減してしまうのです。

黒豚の応援団長になれ! と言われて

今では豚肉の中でも別格の存在である黒豚。そんな不遇の時代があったなんて意外ですよね。そして、現在の世の中にここまで黒豚が広まったのは、あぢもりがあったからと言っても過言ではないんです。今回は鹿児島の黒豚の見事な復活と共に歩んだ同店の歴史を社長・佐藤光也さんにうかがうことができました。
佐藤社長は北海道生まれ。慶應義塾大学を出て神戸の会社に就職します。そこで出会い結婚した女性が鹿児島の食堂の娘さんでした。佐藤社長は奥様の実家の家業を継ぐと決めて鹿児島に移り住みます。

当時経営が芳しくなかった家業の食堂。自分が何とかしようという思いで、大学同窓会の事務局で飲食業の先輩たちを紹介してもらいノウハウを聞いて回るなど奔走します。そんな中、大学時代に応援団の団長だった佐藤社長は応援団の名簿を見て、鹿児島に武田信近という大先輩がいると知り、早速挨拶に行くのです。

当時、黒白論争の真っ只中。武田信近氏の元を訪れると「鹿児島に黒豚を食べられる店がないから、黒豚メニューを出してくれないか」と頼まれます。

「牛肉派の私でしたが、大先輩から『今度は黒豚の応援団長になれ』と熱心に言われて、牛肉から黒豚に気持ちを変えざるを得ませんでした。そして黒豚を復活させる、私はそのための店をやるんだと奮起したのです。早速、黒豚を取り寄せて食べてみたら、これがとても美味い。牛でもない鶏でもない、食べたことのない不思議な味だった。これならやれる、そう思いました。そこから今日までの私の40年が始まったんですよ」

黒豚のしゃぶしゃぶを最初に始めたお店

奥様の実家の食堂を黒豚料理専門店あぢもりとして再スタートさせた当時は、他に黒豚を提供する店などはありませんでした。世間では豚肉は「牛肉より下」というイメージで、外で食べるものではなかったそうです。どうにかして黒豚が美味しいということを全国にPRしたいという一心で、高級なイメージの、しかも当時は牛肉でやるのが当たり前の「しゃぶしゃぶ」を黒豚でやろうと決めました。ただ牛肉よりも味が淡白なのでスープにくぐらせるという食べ方を、黒豚を応援する先輩たちのアドバイスを受けながら考案します。そして現在の黒豚しゃぶしゃぶの原型が生まれるのです。

パイオニアとして鹿児島の味を守っていく

当初、地元でも黒豚はなかなか認められませんでした。しかしバブル期のグルメブームから徐々に知られるようになり、90年代には首都圏を中心に黒豚の人気が高まってその美味しさが評価され始めます。その後も佐藤社長は何度も試食会を開き、自身がCMやラジオに出演したり、自ら全国32都市のタウン誌を回るなど懸命なPR活動を続けました。そして創業20年目の頃、ようやく黒豚が世間に認知されてきたと実感したそうです。

「今では鶏や魚など、牛肉以外のスープしゃぶしゃぶがいろいろありますよね。そういう新しいしゃぶしゃぶの文化が全国に広がったのは、当店がきっかけだと自負しています」と話す社長。
一時は風前の灯火となっていた黒豚。今では鹿児島の街のそこかしこに黒豚の文字が掲げられています。県内で出荷される黒豚の年間頭数の割合もこの40年で10倍ほどに増えました。佐藤社長は現在のその光景に「夢を見ているよう」と話す一方で、ただ黒豚なら何でも美味しいわけではないと続けます。すっかり世間に定着した黒豚の人気ですが、それに甘んずることなく今後もパイオニアとして黒豚の質の維持発展に尽力し、本物の味を守っていくことがあぢもりの役目だと語ってくれました。

とろけるような極上ランクの黒豚だけを秘伝のスープで

話すよりも、とにかく食べなさいと取材陣を促す社長。試食をしない取材はお断りなのだとか。1人でも多くの人に鹿児島の味・黒豚の美味しさを知ってもらいたいという思いを感じます。

今回、取材班がいただいたメニューは、維新コース( 4,320円 税込・サービス料別)
特選黒しゃぶ肉・野菜・小鉢・特製手延細うどん・デザート(画像は3名分になります)
 
あぢもりの「黒しゃぶ」は黒豚をスープにくぐらせ生卵に絡めて食べる、すき焼きとしゃぶしゃぶが合わさったような独自のスタイル。ポン酢やゴマだれはなし。熱伝導率のいい金色の銅製鍋に、透き通ったスープがたぎります。そこへまずは薔薇の形に盛り付けられたバラ肉をかたまりのまま、ふわりと投入。

肉がほんのり色づいたところを、最初はスープの味だけでいただきます。肉はとても柔らかく甘い! 「白身」と呼ばれる脂身は後味が軽やか! それらを引き立てるスープは和風だしのようですが、レシピは秘密。「全てを知ってしまわない方がいい。夫婦でも何でもね」と笑う社長。

バラ肉の周りに盛られた肩ロース肉。こちらは程よい歯ごたえ。黒豚は「極上」から「等外」まで5ランクに分かれていますが、あぢもりでは極上ランクの厳選したものだけを使用。社長は生産者さんらと共に黒豚の品質向上のための研究にも関わっています。

特選黒しゃぶのコースは、昼も夜も、一人でも団体でも楽しめる!

あぢもりの特選黒豚しゃぶしゃぶは、ちょっと贅沢なディナーというイメージがありますが、実は昼も夜もどちらも楽しめるんです。ランチは、特選黒豚しゃぶ肉と野菜・小鉢・シメの特製手延細うどんが付いた「黒しゃぶランチ」(3,240円)をはじめ、黒しゃぶの他に黒豚一口ヒレかつ・黒豚コロッケも味わえる「Aコース」(5,400円)、特選黒豚しゃぶ肉の大盛りになった「Bコース」(4,320円)が用意されています。他にも黒豚ロースかつなど揚げ物の定食メニューも充実。

ただし、お昼のしゃぶしゃぶは13時までに入店しないと食べられないのだそう。ランチ営業は11時30分からなので、早めに行くのがおすすめです。

夜は、写真の「維新コース」(4,320円)から桜島コース(8,640円)まで5つのコースから選べ、宴会向けのプランもあります。コースだけでなく、黒豚皮付き角煮や黒豚味噌焼、黒豚とんこつ(すべて790円)や、刺身風の黒豚豚とろ(1,080円)などお酒の席にぴったりの一品料理も豊富。(価格はすべて税込・サービス料別)

座席もカウンターやテーブル席、個室まであり、しゃぶしゃぶは1人分から注文可能。気軽にひとりで立ち寄るのもよし、家族や仲間とゆったり特別な時間を過ごすのもよし。シーンに合わせいろいろな楽しみ方ができます。
社長の黒豚しゃぶしゃぶへの想いやこだわりに耳を傾けながら、美味しく鍋をつついていた取材班。すると、ニヤリとしながら「何か気づかない?」と社長。そう言えば肉の灰汁が出ないですね! 理由を聞くと、これもまた「秘密」とのこと。
スープは社長が自ら毎朝仕込みます。
社長は毎朝、神棚の前でお世話になった50名の名前を唱えながらお祈りをするのだそう。「大切なのは人との繋がり」と語る、そういう気持ちがスープにも溶け込んでいるのかもしれませんね。
黒豚料理 あぢもり(くろぶたりょうり あぢもり)

鹿児島市千日町13-21

http://adimori.com/

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