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焼酎発祥の地といわれる鹿児島県伊佐市で「伊佐焼酎」工場見学の旅

焼酎といえば鹿児島。中でも寒冷な気候と清流に恵まれた伊佐は、古くから焼酎が造られ、「焼酎発祥の地」としても知られています。そんな伊佐市で、発酵の奥深い世界に触れる工場見学の旅はいかがでしょう。

日本最古の「焼酎」の文字が発見された郡山八幡神社へ

二体の仁王像が構える神社入り口。仁王像の手が落とされているのは、鹿児島で徹底して行われた廃仏毀釈によるもの

焼酎の旅は、まず焼酎との縁の深い「郡山八幡神社」へのお参りからスタートしましょう。「郡山八幡神社」は昭和24(1949)年に国指定重要文化財に指定されました。こちらの神社をより一層有名にしたのが、「焼酎」の二文字が刻まれた柱貫の存在です。柱貫とは、柱と柱の間をつなぐ横木のことです。

大きな杉が並ぶ参道(写真左)。鮮やかな赤が印象的な本殿建築。室町及び桃山形式の手法と琉球建築の情調が強く加味されています(写真右)

神社本殿を改築した昭和29(1954)年、本殿北東から大工が書いたとみられる落書きのある柱貫が発見されました。
内容は「神社の修理を請け負ったのに、座主は大変なケチで一度も焼酎を飲ませてくれなかった。なんとも迷惑な話だ」といったもの。現在使われている「焼酎」と同じ字が刻まれていました。(※この柱貫のレプリカは、後ほど紹介する「大口酒造」で展示しているのでお見逃しなく)木札には「永禄二歳(1559年)」の年号も記されており、約450年昔も今と変わらず焼酎が庶民に親しまれ愛されていたことが伺えます。これは「焼酎」の文字としては日本最古のものなので、伊佐市の大口が焼酎発祥の地といわれる由縁です。
それにしても、薩摩民の焼酎への思いは並々ならないものがありますよね。「焼酎を振舞ってくれなかったケチ」と書いた木札をこっそり神社に残して、それが貴重な資料になり、歴史として語り継がれてしまうなんて、書いた大工は想像していたのでしょうか?焼酎を振舞わなかったばっかりに「ケチ」と語り継がれてしまう座主の存在も、神聖な神社に依頼主の悪口を書いてしまう大工の存在も、まるで軽妙なオチのある落語のような面白さがあります。

郡山八幡神社

鹿児島県伊佐市大口大田郡山1549

https://www.city.isa.kagoshima.jp/culture/shisetsu-bunka/shiteibunka/

「黒伊佐錦」で有名な大口酒造で焼酎見学ツアー

見学ツアーは平成16(2004)年に完成した第二蒸溜所で受け入れ

あたりを山々に囲まれた寒冷な気候の伊佐は、県内随一の米どころであり、清流にも恵まれ、焼酎の名産地としての条件をかねえ備えています。古くから焼酎の名産地として知られてきました。そんな伊佐の有名な焼酎と言えば「黒伊佐錦」。製造元である大口酒造では、見学ツアーの受け入れを行っています。(※要事前予約)
大口酒造は昭和45(1970)年、伊佐地区の11蔵元が協業化して生まれました。白麹で作られた焼酎が全盛だったころに、黒麹特有の華やかな香りやコクを生かした「黒伊佐錦」を販売して、瞬く間にシェアを拡大。黒ブームの先駆けとなりました。

伊佐伝承館「永録」では、日本最古の「焼酎」が書かれた柱貫のレプリカに注目

広い窓からは伊佐の田園風景を望みます。

工場見学のスタートは、伊佐伝承館「永禄」から。まずはここで焼酎の製造工程を紹介する約15分のビデオを見ます。原材料の処理から製麹、仕込み、蒸留、貯蔵までの一連の流れがわかりやすくまとめてあります。

今と変わらない「焼酎」の文字に感動

伝承館のギャラリーには、先ほど紹介した郡山八幡神社で発見された「焼酎」の文字が刻まれた柱貫の一部のレプリカがあります。「焼酎」の文字が今とほとんど変わらないことに驚きます。

奥深い発酵の世界に触れる

この袋ひとつで1トン! 一日に6袋、つまり6トンの米を使います。

ビデオで見た焼酎づくりの一連の流れを、今度は実際に工場で見学しましょう。工程は、大きく次のように分かれます。
①原料米の処理(洗米→浸漬→蒸し) ⇒ ②製麹(培養して麹を作る) ⇒ ③一次仕込み(麹+水+酵母) ⇒ ④原料イモの処理 ⇒ ⑤二次仕込み(一次もろみ+蒸したサツマイモ+水) ⇒ ⑥蒸留 ⇒ ⑦貯蔵
米を処理して麹をつくり一次仕込み、サツマイモを処理して二次仕込み、最後に蒸留、貯蔵という流れです。スタッフの方の案内で、まずは米の処理工程から順に見ていきます。

製麹機の中。蒸した米に種麹菌を混ぜて麹を造ります

主力商品である「黒伊佐錦」は、麹造りに黒麹を使用しています。こうして製麹機の中を覗いてみると麹が白いですが、実は黒麹も混ぜた当初は白く見えるのです。その後、温度を下げるにしたがって黒く変化していきます。

一次仕込みの様子
櫂入れをして、もろみ全体をまんべんなく混ぜます(画像提供:大口酒造)

できた麹に、水と焼酎酵母を混ぜて6日かけて発酵させます。発酵させたものを一次モロミといいます。2日目くらいからぽこぽこと爽やかな香りがあたりに漂っています。
※一般のお客様には、米処理の工程および製麹工程、一次仕込みの様子は建屋の外から案内しています。

一日30トンのサツマイモを処理。パート女性が約30人なので、一人当たり一日1トンほど処理していることになります。(画像提供:大口酒造)

さて、次はサツマイモの工程です。洗ったサツマイモを、パートの女性たちが両端と傷のある部分を削る作業をしている様子が見られます。この作業は、悪い香りの原因を取り除くために行われているそう。さらに、均一に蒸せるように、大きい芋は半分に切ります。
9~11月以外のシーズンは冷凍甘藷を使うため、できれば生の甘藷を処理している9~11月の工場見学がおすすめです。女性たちの鮮やかな手つきにほれぼれします。

カットした芋を蒸します。あたりにサツマイモの甘い香りが(写真左/画像提供:大口酒造)二次もろみの様子。アルコールの清々しい香りがします(写真右/画像提供:大口酒造)
蒸したサツマイモに、一次モロミと水を加えてさらに発酵させるのが二次仕込みです。
蒸留棟(写真左)。原酒はタンクに貯蔵して保管。このタンク1つに、一升瓶で約30万本の焼酎が貯蔵されています(写真右)

最後に、単式蒸留器(ポットスチル)で蒸留してモロミ中のアルコールを回収。37-39℃の原酒の完成です。

焼酎の飲み比べで味・香りの違いを楽しむ

最後に焼酎の飲み比べもできますよ。

こうして工場で一連の流れを見た後は、お待ちかね、焼酎の試飲タイムがあります。もちろん運転手の方は飲めませんが、香りを嗅いでみるだけでちょっとした違いに気がついて面白いですよ。現在サツマイモは約3000の品種がありますが、品種によって焼酎の香りに影響があることが、大口酒造の研究室によって明らかになりました。数十種類のサツマイモで芋焼酎を作って研究したそうです。
大口酒造で製造・販売している焼酎の中でも「伊佐小町」は「ハマコマチ」という品種のサツマイモで作られており、花や紅茶、トロピカルフルーツのような華やかな香りが特徴的な銘柄です。違いがわかりやすいので、他の焼酎と比べてみてください。

土産物販売コーナーでは、焼酎やオリジナルTシャツなどが購入できます
おすすめは伊佐市限定販売の「伊佐舞」。ほかの地域では売っていないので、伊佐で購入したい焼酎です(写真左)。IMO豚もおすすめです。焼酎を造る工程で出た焼酎粕を飼料にして育った豚肉です。臭みがなく脂の甘い豚肉になるのだとか(写真右)
大口酒造株式会社

鹿児島県伊佐市大口原田643番地

https://www.isanishiki.com/

まろやかで口当たりの柔らかい伊佐の名水

水くみ場(写真左)にて伊佐の名水(写真右)をいただきます

大口酒造が焼酎の仕込みに使っている地下水は、敷地外にある水くみ場で自由に汲むことができます。ツアーの最後に汲んで帰ってはいかがでしょう。まろやかで口当たりの柔らかい水です。近所の人は「ごはんを炊くのも料理に使うのも焼酎を割るのも、全部この水でないと」と定期的に汲みに来る人も多いのだとか。見学の際は、ペットボトル等を持参しておきましょう。
大口酒造第二蒸留所見学ツアー ※完全予約制(9月から11月が最盛期、全製造過程を見ることができおすすめ)
見学時間:9:30~11:30 / 13:00~15:00(要相談) 定休日:土・日、年末年始。臨時の休みとなる場合あり。 見学料:無料

伊佐米や地元食材をさつまや食堂

さつまや食堂外観(写真左)。アットホームな雰囲気の店内。旅館時代から使われている照明が店内を柔らかく照らしています(写真右)

旅の最後は、伊佐のおいしいごはん処でほっと一息。伊佐市外からもわざわざ訪れるファンのいる人気店「さつまや食堂」です。「さつまや食堂」は、旅館を改築してできた食堂です。馬車の時代、このあたり一帯は宿場町として栄えていました。しかし、車社会の到来とともに客足は途絶え、旅館は次々と閉鎖され、そんな時に現店主前田さんの祖父母が食堂として再スタートをされました。
その後、一度途絶えたさつまや食堂でしたが、約18年前に再開。現在は、寿司店や居酒屋などで約3年修行された前田さんが店主を務めます。

とろサバ定食1,320円

ランチメニューは、焼き魚定食やカツ定食、うどんやそば、日替わりでチキン南蛮などがあります。店の一番人気は本場宮崎仕込みのチキン南蛮ですが、日替わりで登場するため、あるかどうかはその日の運しだいです。
焼き魚定食は、店主が厳選した魚を使っています。脂ののった魚を絶妙な焼き加減でふっくらと焼き上げており、ごはんの進む逸品です。みそ汁、きんぴら、お浸し、漬物、煮物と副菜がどれも素材の滋味を感じる味わいで、元気が湧いてくるようです。

どの定食にもお米は伊佐米を使用。ふっくらつやつやのごはんが、おかずの味をより一層引き立ててくれます(写真左)。イサイダ―350円。添えられている柑橘は時期によって変化。この日はかぼすでした(写真右)
ご当地サイダー「イサイダー」もぜひお試しあれ。伊佐米で作られた米シロップから作られたサイダーは、米の優しい甘みでさっぱり飲めるサイダーです。添えられたミントや柑橘が清涼感をプラスしています。こちらは、伊佐の飲食店でしか飲めないご当地サイダーです。
 

屋根裏スペースにはレトロかわいいアンティークの数々が

2階の屋根裏部屋にあるギャラリーは必見です。アンティーク雑貨や食器がずらりと並んでいます。掘り出し物もたくさん。お手頃なお値段で販売されているので、お気に入りを探してみてはいかがでしょう。また店内横の物販スペースでは、伊佐在住の陶芸家やクラフト作家の商品や、伊佐米、米飴などを販売しています。
※しばらくの間は新型コロナウイルスへの感染対策のため、前日までの完全予約制で営業しています(2021年3月現在)。

さつまや食堂

鹿児島県伊佐市菱刈前目1835番地

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