おいしい島 九州

世界有数の巨大カルデラ内に暮らす 人々の営みを支えてきた〝湧水群〟

阿蘇の湧水群<熊本県阿蘇市、阿蘇郡>

民家のすぐそばで、こんこんと湧き続ける湧水地。山深い林の中で静かに湧き出し、棚田を潤す清冽な水。人々が集まる商店街を散策する人々の渇きを癒す水基。ユネスコ世界ジオパークに認定されている熊本県の阿蘇ジオパーク内には、火山がもたらした恵みの一つといえる湧水が複数あり、古くから生活用水として利用され、人々の暮らしを支え、農業を支えてきました。阿蘇の湧水地を巡る、小旅行に出かけてみましょう。

大分との県境の山に恵みをもたらす原生林の中に湧く清冽な水

阿蘇ジオパークを構成する阿蘇火山は、阿蘇五岳(中岳、高岳、根子岳、杵島岳、烏帽子岳)をはじめとする多くの山体で構成される火山群(中央火口丘群)、外輪山を含めた地域の総称です。約27万年前に誕生し、火山活動を繰り返してきたと言われています。世界有数の規模を誇る現在のカルデラは約9万年前の大規模な火砕流噴火による陥没で形成されたもので、カルデラ内の平地や周辺には、7万人余りの人々が暮らしています。多くの集落と、拓かれた水田や畑を潤すのが、いたるところに点在する湧水地です。今もなお涸れることなく湧く水は、地域の人々の暮らしを潤しているのです。

阿蘇・九重の火山噴火による噴出物でつくられた地層を通って地下水が湧出しているのが、産山村の池山水源と山吹水源です。不純物が少なく、透明度の高い清らかな水であることが特徴で、きれいな水を好むサワガニやカワゲラの仲間が生息しています。標高約780mにある池山水源は環境省名水百選の一つであり、年間を通して13.5度の水温が保たれ、毎分30tの水量を誇っています。

大分県との境に湧くのが山吹水源です。駐車場から550mほどの遊歩道を歩いて向かう途中は、カシワやクヌギ、カエデなどの手つかずの林が広がり、聞こえるのは、水音と鳥のさえずりだけ。自然のままの風景を楽しみながらたどり着いた水源は、一層の静けさが漂い、荘厳な雰囲気。水源のすぐ下には火砕流台地が侵食された谷間に拓かれた扇田と呼ばれる棚田があります。山吹水源の湧水が引かれた日本棚田百選に選ばれている美しい棚田で、良質な水と土、寒暖差のある気候が、美味しい米を育てています。

池山水源

山吹水源

山吹水源の遊歩道

扇田とよばれる棚田

湧水地が点在する南郷谷生活用水として人々の暮らしを潤す

阿蘇カルデラの南部は、南郷谷と呼ばれています。カルデラ地形と、その中にある中央火口丘群の存在により、水の流れが複雑であるため、広い範囲に湧水地が点在していると言われています。そのほとんどが白川の北にあることから、中央火口丘群からの伏流水であると考えられています。

南阿蘇村地域の湧水群を代表するのが、環境省の名水百選にも選ばれている白川水源です。毎分60tの湧水量があり、多くの観光客が訪れるスポットでもあります。

ほか、寺坂水源や妙見神社など、良質な水が噴出するすぐ側には民家があり、地域住民の生活用水として、今も人々の暮らしを潤しています。池の川水源もその一つ。湧水量は毎分約5t。近隣の生活用水、飲料水として利用されています。

そこで、生活用水の100%を水源の湧水でまかなっているというあか牛農家の林龍雄さんと、絹子さんに出会いました。2人の自宅敷地内には水源から取水した水を使うための建物が造られています。「夏は冷たく、冬は温かい自慢の水です。水量も豊富で、ここでは手足を洗ったり、洗濯物をしたりしています。料理やお風呂も水源の水を使います。これからも涸れることなく、ずっと湧いてほしいですね」と絹子さん。龍男さんは、「大切な水源ですから、毎年7月初旬には、村人たちで掃除をしています。そして7月と11月には、地域の人が集まって感謝の気持ちを込めて水神さん祭りを行っているんですよ」と教えてくれます。「ここの水を飲んだ人たちは皆褒めてくれますし、うらやましがられます」と2人。飼育しているあか牛は水道水を飲まず、水源からの湧水を好んで飲用すると話します。休日になると駐車場には、他県から水を汲みに来る人たちの姿も多く見られるそうです。

白川水源

寺坂水源

明神神社

池の川水源

林龍男さん、絹子さん

阿蘇神社の参道近くに湧く商店街の人々も利用する水基

カルデラ内の中央火口丘群の北東の裾野に広がる宮地(みやぢ)地区、役犬原(やくいんばる)地区では、地下水が地表より高くまで湧き上がる湧水(自噴水)がみられます。中央火口丘群に降った雨水が地下深くに浸透し、扇状地を伏流した後に、高い圧力がかかったまま地表に勢いよく湧き出してくるからだと言われています。

約2300年の歴史を持つといわれる阿蘇神社参道近くの仲町通りを中心に湧く水は、水基として商店街の人々はもちろん、多くの観光客に親しまれています。水基は門前町を中心に36基あり、菓恋水(かれんすい)や、文豪の水、金脈の水など、一つずつに名が付けられ、今も変わらず通りを散策する人々の喉を潤しています。また、商店街の店々では、湧水を使ったスイーツやグルメも提供。食べ歩きにももってこいです。

仲町通りの商店街

文豪の水

水基の中でも最も湧水量が豊富な金脈の水

INFORMATION

阿蘇の湧水巡り
湧水巡りの際は、持ち帰り用のペットボトルなどの持参がおすすめです。
■池山水源 熊本県阿蘇郡産山村田尻14-1
■山吹水源 熊本県阿蘇郡産山村産山
■白川水源 熊本県阿蘇郡南阿蘇村白川2052
■寺坂水源 熊本県阿蘇郡南阿蘇村中松613
■明神神社の池 熊本県阿蘇郡南阿蘇村久石1068
■池の川水源 熊本県阿蘇郡南阿蘇村中松4179
■阿蘇神社(仲町通り) 熊本県阿蘇市一の宮町宮地3083-1

協力/阿蘇ジオパーク推進協議会

熊本県阿蘇市赤水1930-1 阿蘇火山博物館1階

TEL: 0967-34-2089

http://www.aso-geopark.jp/