おいしい島 九州

山中を駆け、自然に育つきめ細やかな肉質の放牧黒豚

黒豚<鹿児島県鹿屋市>

真っ黒な体毛に、くるんと丸まった愛らしい尻尾。約400年前に島津家久によって琉球王国から鹿児島へ持ち込まれたとされる黒豚。その味は、徳川幕府の要人であった水戸藩主・徳川斉昭公や、明治維新の立役者・西郷隆盛も愛したと伝わります。鹿児島を代表する味覚の一つでもある黒豚を放牧しながら飼育しているご夫婦がいると聞いて鹿児島県鹿屋市を訪ねました。

偉人も認めたおいしさは科学的に証明済み

「いかにも珍味、滋味あり、コクあり、何よりも精がつく」。
水戸藩主・徳川斉昭が評した黒豚の味です。
黒豚は、琉球王国から鹿児島へと持ち込まれた後、イギリスから導入したバークシャーと交配されて誕生しました。

現在、鹿児島県黒豚生産者協議会が育てる黒豚は、鹿児島県のブランド肉かごしま黒豚」の名前で出荷されています。四肢、鼻梁、尾端の6カ所に白斑があることから「六白」とも呼ばれ、一般的な豚の1.2〜1.5倍にあたる230〜270日間の肥育を経て出荷されます。甘みや旨みを感じさせるアミノ酸の量が多いことが科学的に証明されており、きめ細かな肉質で歯切れがよく、ジューシーなのが特徴。脂がべとつかず、さっぱりしています。

田中さん夫婦が育てる黒豚は〝放牧薩摩黒豚〟の名で出荷されています

三清屋の田中武雄さんと陽子さん。夫婦二人三脚で30年間走り続けてきました

21世紀へ羽ばたく子どもたちのために
安心・安全でおいしい黒豚を

田中武雄さんと妻の陽子さんが〝三清屋(さんしんや)〟として、大隅半島の中部に位置する高隈山の麓で黒豚の飼育を始めたのは平成元(1989)年のこと。武雄さんは「21世紀の子どもたちのために、安心・安全で、おいしい黒豚を育てたい」と、1万8000㎡もの森を切り開き、放牧できる環境を整備。また、牧場内に地下86mの井戸を掘り、良質な飲み水を確保。黒豚が暮らしやすい条件を整えていきました。さらに、豚舎の床には水はけがよく、殺菌作用のある桜島の火山が堆積したシラスを敷く工夫も。飼料は非遺伝子組み換え(non-GMO)の穀物や飼料米、米ぬかなどを独自にブレンドして与え、さらに農薬や化学肥料不使用の自家栽培したサツマイモやジャガイモ、野菜、大麦若葉も食べさせるという徹底ぶりです。森の中でドングリや赤土を食べ、遊んだり、昼寝をしたり…。のびのびと暮らす黒豚は、ストレスフリーで健康に育ちます。「だから病気予防のための抗生物質や成長ホルモンなどを投与する必要がありません」と武雄さん。三清屋の放牧薩摩黒豚の肥育期間は約300日。肥育に手間と時間がかかるため、年間出荷頭数は500頭ほどに限られます。大量生産ではなく、環境保全や高品質を求めるその姿勢が評価され、平成27(2015)年には農林水産省が認定する「フード・アクション・ニッポンアワード」の大賞を受賞しました。

自社農場で栽培する大麦若葉。黒豚の飼料になります

「フード・アクション・ニッポンアワード」は、国産の農林水産物などを表彰する制度です

さらりと溶ける上質な脂
赤身はコクのある旨み

鹿屋市内にある直営のバーベキューガーデンでは、放牧薩摩黒豚を炭火焼きで食べることができます。

よく熱した金網にスライスした放牧薩摩黒豚をのせると、途端に銀白色の脂が溶けはじめます。肉の両面に焼き色が付いたら、釜炊き塩をぱらり。熱々の肉を口に含むとさっと脂が広がると同時に、やわらかな甘みが舌の上でふくらみます。赤身は緻密な肉質で歯切れがよく、旨みにはコクがあります。豚肉特有の臭みも全く感じません。ふと気づいたことがあります。脂身の多いバラ肉を何枚食べても、胃が重くならずに、後味がさっぱりしているのです。口の回りがギトつくこともなく、どんどん箸が伸びます。

1人1800円(税別、小学生は1500円、幼児は1130円)。写真は大人3人前

美しい紅色の肉と、銀白色の脂身が特長

放牧薩摩黒豚を手軽に食べられる
陽子さん自慢の手作り加工品も

三清屋は加工センターを持ち、黒豚の生産から精肉または加工、発送まで自社完結させています。一番人気は〝味噌漬〟。鹿児島の米味噌をベースにしょうゆと砂糖、ニンニク、カボス果汁を合わせた味噌床に、ガーゼで1枚ずつ包んだ放牧薩摩黒豚を漬け込んで熟成させてあります。白ご飯によく合うしっかりとした味付けで、家庭では焼くだけという手軽さも受け、県外からの取り寄せの注文が絶えない一品です。全ての商品が手作りで、保存料や着色料、人工甘味料などの添加物は使用されていないので、安心して食べることができます。

加工品は鹿屋市笠之原町にある直売店のほか、通信販売でも購入可能

放牧薩摩黒豚を天然羊腸に詰めた〝粗挽きソーセージ〟

INFORMATION

生産者直営のバーベキューガーデン

三清屋

バーベキューガーデンでは、雑木林の中で鳥のさえずりを聞きながら食事ができます。放牧薩摩黒豚の盛り合わせにつく野菜は自家栽培を中心にした県産品がほとんど。〝ホルモンミックス〟や〝粗挽きソーセージ〟といった単品メニューもあり、春には裏山のタケノコも炭火焼きで楽しめます。

鹿児島県鹿屋市笠之原町7357-1/TEL.0994-44-5196(三清屋)/営.11:00〜14:00、17:00〜21:00/休.完全予約制