おいしい島 九州

大分特産の柑橘・かぼすを食べる ブランド魚〝かぼすブリ〟

かぼすブリ〈大分県臼杵市〉

しんしんと冷える、早朝の冬の漁港。人の顔の見分けがつかないほどの暗さの中、ドッドッと音を立てる漁船の周囲に漁師たちが集まりだし、 手際良くブリの餌を積み込み始めました。大分県では、リアス式海岸が続く豊後水道沿いの養殖に適した内湾で盛んにブリの養殖が行われており、その生産量は全国2位。中でも、2010年に生産が始まった〝かぼすブリ〟は、餌に大分県の特産である柑橘・かぼすを与えることでさっぱりとした味わいの肉質になると注目を集めています。

冬の早朝の海で始まるかぼすブリの水揚げ

午前6時30分。大分県臼杵市佐志生の漁港を訪ねました。重宝水産株式会社代表取締役専務の山本恵之さんを中心に、合羽を着た漁師たちが作業を行っています。皆、言葉少なながら作業の流れが止まることはなく、日々の仕事で培われた阿吽の呼吸を感じさせます。リフトで次々に漁船に積み込まれているのは、沖合で養殖されている〝かぼすブリ〟の餌になる冷凍イワシです。30分ほどすると、山本さんが「船を出しますよ」と教えてくれます。出航する頃、大きな太陽が昇ってきました。

臼杵湾を染めて昇る太陽は幻想的です

1日に与える餌の量は、1生け簀あたり夏は800kg、食欲が落ちる冬でも300kgほど

水温が低い臼杵の海で育つブリは身が締まり、肉質の良さが自慢

漁船で約5分。出荷用のかぼすブリのいるイカダに到着します。山本さんは船を操縦しながら、「大分の海は、ブリやヒラメ、マグロなどが育つ豊かな漁場です。臼杵の海は、県内の主な養殖漁場の中では一番水温が下がるので、養殖には不向きだと言われてきました。しかし、社長の佐々木兼照さんらが養殖に挑戦。今では、水温が低いため肉質が良く、身の締まった養殖ブリの産地として認められるようになりました」と話します。かぼすブリを養殖しているイカダは、10m×10m。内に網が張られており、深さ8mの生け簀になっています。中には、出荷前の5kgサイズのものだと約3000尾、小さなものだと約8000尾。当日の出荷用のブリは、予め別のイカダに移されています。そのイカダに漁師が乗り移り網を手繰り寄せると、ビチビチとひしめき合う70cmほどのかぼすブリの姿が見えてきました。網ですくった数尾を1尾ずつ包丁で締め、氷の入ったケースに移します。「明日の朝、東京豊洲などの全国の市場に並びます」と山本さん。

山本恵之さん

漁船上で出荷作業が続きます

大分県の特産品・かぼすを生かす新しい試みから生まれたブランド魚

かぼすブリは、大分県の新しいブランド魚。大分県は元々ブリの養殖が盛んで、「豊の活ぶり」の名で全国に出荷されてきました。しかしブリは他の魚に比べ、切り身にすると血合いがすぐに黒ずんでしまうことが弱点。そこで大分県の農林水産研究指導センターが2006年から研究に着手。柑橘類に含まれるポリフェノール、ビタミンCなどの抗酸化作用がブリの酸化のスピードを遅らせることに着目し、餌として与える試験を重ねました。たどり着いたのは、大分特産のかぼすを皮ごとパウダーにし、総給餌の0.5%を餌に加え、25回以上与えること。ほんの数尾を初めて出荷したのは2010年でした。さらに、本来は酸化抑制を目的に与えたかぼすは、肉質の臭みをとり、さっぱりと爽やかな味わいに仕上げるという副産物をもたらしました。現在、かぼすブリは大分県内の臼杵市や津久見市、佐伯市内の生産者によって養殖が行われています。2013年には生産者、大分県漁業協同組合、行政等からなる組織を立ち上げ、関係者一体となってかぼすブリのさらなる品質向上やPR活動に取り組んでいます。佐々木さんらも、地元の料亭のメニューに加えてもらうなど、地道な普及活動を行ったそうです。その味はおいしいと評判になり、年々出荷量は拡大。約600tが大分県内を中心に、県外にも出荷されていくようになっていきました。「今では、大分県内のどのスーパーでも売られているんですよ」と山本さんが言います。

船上で生餌にかぼすパウダーを混ぜて与えます

こちらがかぼすパウダー

脂のキレが良く、すっきり爽やかな味わい

かぼすブリの養殖は、大分県沖界隈で獲れる2〜3gの稚魚(もじゃこ)を仕入れることから始まります。これを1年6カ月以上かけて育て、5kgほどになった頃に出荷します。海水温や魚の動き、体色などを観察し、餌の量や与えるタイミングなどを調整しながら育てていくのが漁師たちの腕の見せどころです。出荷は例年10月末にスタートし、産卵前の3月末まで続きます。かぼすパウダーを与えるのは出荷の前。「約2カ月かけてかぼすを与えていき、じっくりとかぼすブリに仕上げるんです」と山本さん。

エラの部分に付くタグが目印

1尾ずつ冷蔵出荷されます

臼杵市内でかぼすブリを味わえる飲食店「みつご」では、カルパッチョや、ふわっと香りの立つアラレ揚げのあんかけなどが並ぶかぼすブリのフルコースが用意されています。代表の遠藤幸男さんは、「とにかく脂のキレが良く、色変わりしにくいのが特徴です」と、料理人の立場からかぼすブリを評価。皮がとても薄いため皮ごと食べられ、皮と身の間にある旨味も十分に堪能できるのも魅力です。また、煮たり焼いたりしても臭みが少なく食べやすいとのこと。ブリしゃぶは、さっと出汁にくぐらせただけで、口の中でとろけてしまうほどの柔らかさに。従来のブリの印象を覆す、ふんわりすっきりとした味わいです。今や全国的に知られるようになったかぼすブリですが、地元で食べる朝獲れの身は格別でした。

かぼすブリは、薄い皮も特徴の一つです

臭みのないかぼすブリの特長を活かしたブリしゃぶも美味

脂の乗ったブリとろ寿司も絶品です

■取材協力/大分県農林水産部
重宝水産株式会社
大分県臼杵市市浜997-1/TEL.0972-64-6320
http://juuhousuisan.com

INFORMATION

かぼすブリのフルコースが堪能できる店

ふぐ料理みつご

元々はふぐ料理の専門店ですが、関アジ・関サバやかぼすブリなど、大分名産の魚料理も味わうことができます。代表の遠藤さんはかぼすブリの普及にも尽力されてきた人物で、かぼすブリのフルコースも用意されています。

大分県臼杵市掛町6組
TEL.0972-62-5107
営.11:30〜14:00、17:30〜21:30(ラストオーダー21:00)
休.不定
http://mitugo.net