おいしい島 九州

爽やかな香りも楽しめる 世界最大級の柑橘〝晩白柚〟

熊本の晩白柚〈熊本県玉名郡 〉

東南アジアを原産地とし、世界最大級の柑橘と言われる晩白柚(ばんぺいゆ)。淡い黄色の果皮は厚く、大きなものは直径25cmほど。重さは2kgを超えるものもあります。収穫後、食べごろになるまで1カ月ほど置いておくと、爽やかな柑橘の香りを楽しめる柑橘です。1930年、本格的に日本に株が導入され、熊本県八代市で栽培が始まりました。熊本は日本国内の収穫量のうち、9割以上を占める一大産地。その晩白柚を、農薬や肥料を使わずに栽培している柑橘農家の西田淳一さんを訪ねました。

熊本県八代市で栽培が始まった東南アジア原産の柑橘

晩白柚はザボンの一種。その名は、果肉が白い白柚(ペイユ)で、晩生であることに由来するといわれています。柑橘類の中では世界最大級。1920年に熊本県の植物研究家出ある島田弥市がベトナムから持ち帰って栽培を試みたそうです。当時は普及しなかったものの、1930年になって台湾から本格的に株が導入され、熊本県八代市での栽培が始まりました。現在、晩白柚は八代市の特産品として知られ、盛んに栽培が行われています。
分厚い果皮は淡い黄色で、内側には果肉を包むように白い綿の部分があります。保存性が高いため、収穫後1カ月ほどは室内に飾っておくこともでき、その間果実からは独特の爽やかな香りが漂ってきます。大きな房を口に含むと、穏やかな酸味が広がり、後口はすっきり。果肉だけでなく、八代市では果皮と綿を棒状に切って砂糖漬けにした晩白柚漬けも名物として知られます。

熊本県玉名郡でも晩白柚が栽培されています

西田淳一さん

農薬や肥料を使わない自然栽培で樹齢40年の木に実る晩白柚

熊本県玉名郡にあるにしだ果樹園生産者代表の西田淳一さんは、農薬を使わずに柑橘を栽培している珍しい農家。「月の満ち欠けに合わせて草刈りや剪定、収穫を行うシュタイナーのバイオダイナミック農法と、自然栽培を融合させた感じ」と言う独自の農法で、晩白柚のほか、温州みかんや不知火、はっさく、日向夏、レモンなど約30品種を育てています。
急な山の斜面を案内しながら、「柑橘が美味しくなるかどうかはミネラルが鍵を握っています」と西田さん。「ここは赤土混じりの石灰岩質なので、カリウムやカルシウム系のミネラルが豊富な土壌。柑橘が美味しく育つ環境です」と教えてくれます。
祖父が切りひらき、父親の代から続く果樹園に植えられている晩白柚の木は樹齢40年ほど。実るまでに枝などで傷が入るのを防ぐため、台風などの影響を受けにくい山の斜面に点々と1本ずつ、生育に適した場所に植えられています。「1本に30個ほど実ります。とても大きな果実なので、収穫前には枝が大きくしなるんですよ。熟成させると甘味が旨味に変わって美味しくなるので、私は収穫後は5度前後に保った倉庫で追熟させます」と西田さん。
農薬や肥料を使わず、ハウスも使わない自然環境の中での栽培は、柑橘も見た目に影響します。雨風により、果皮に黒点や傷が入ってしまうことが多いそうです。一般的に市場に出回っている晩白柚の果皮はツルツルとしていますが、西田さんは「傷があるのが、薬剤を使わず自然栽培している証拠です」ときっぱりとした口調です。

実が大きくなると枝がしなります

園地は、眺めのいい標高200mの斜面に広がっています

木の本能を大切にすると美味しい柑橘に育ってくれる

また、西田さんは、木が果実を実らせるサイクルを大切に考え、収穫する個数を調節するための摘果を行いません。「摘果すると、木の生理を狂わせてしまうんです。何もしなければ2年ごとに、ちゃんと果実を実らせてくれますよ」とのこと。「いっぱい実った年は、実同士で美味しくなろうと競争する本能が働くので、美味しく育つんです。味わえるのは2年に1回になりますが、木の本能に合わせるしかありませんね」。その思いを分かってくれる人にこそ、自分が育てた柑橘を届けたいと言葉を繋ぎます。
西田さんは、大学卒業後、大手電機メーカーで働いていた経験を持っています。そこで環境部門の仕事に携わるうちに矛盾を感じるようになり、環境問題について考えるようになったと言います。「オーガニックで、もっとナチュラルな事をしたいと思うようになりました」とのこと。
果樹園を継いでからは、山の地形や土壌を見直すことで栽培品種を増やし、多品種栽培を行うように。また、ビニールなどの石油製品を使わず、燃料が必要となるハウス栽培も一切行わない栽培法を取り入れています。食べる前までの柑橘の「ストーリー」を大切にしたいと話す西田さんは、栽培法を表現する〝月読み〟の名を冠した果実のシリーズを展開中。これからも自然栽培の基準を融合させた独自の農法で適地適作を守り、その土地の木と草の多様性に配慮して美味しい柑橘を育てたいと話します。その言葉を聞きながら西田さんから受け取った晩白柚は、ずっしりと重く、園地の自然を思い出させてくれました。

左から日向夏、ブラッドオレンジ(モロ)、シークワーサー、温州みかんなど。晩白柚の大きさが分かります

1.5kgほどの晩白柚

食べるときは頭を水平にカットすると剥きやすい

さっぱりしていて、ジューシーな果肉が特長

INFORMATION

にしだ果樹園

にしだ果樹園で、自然のリズムに合わせて栽培、収穫された柑橘は、直販が原則です。西田さんは加工にも力を入れており、果皮ごと搾ったジュースなども販売しています。左からブラッドオレンジ(1ℓ2,300円/税別)、温州みかん(1ℓ2,000円/税別)

熊本県玉名郡玉東町原倉671-3
TEL.0968-85-3008
Fb.nishidaorchard