おいしい島 九州

城下町の商人たちの見栄が生んだ 唐津くんちの〝アラの姿煮〟

唐津くんちとアラ料理〈佐賀県唐津市〉

エンヤー、エンヤー。ヨイサー、ヨイサー。 毎年11月。巨大な曳山(やま)が、
曳き子たちの掛け声とともに 唐津旧城下町を巡行します。
2016年に「唐津くんちの曳山行事」を含む「山・鉾・屋台行事」が ユネスコ無形文化遺産に登録された唐津くんちは、
唐津の男たちの勇壮な祭りとして知られています。
一方、女性たちは商売で日頃からお世話になっている人々を 各家庭料理で〝おもてなし〟するため、くんち料理を用意。
旧城下町が祭りに浮きたつ祭りの日に、欠かせない振る舞い料理です。

唐津っ子が待ちわびる
唐津神社の秋季例大祭〟

唐津くんちは、佐賀県唐津市の南城内にある唐津神社の秋季例大祭。11月2日の宵曳山(よいやま)、3日のお旅所神幸、4日の翌日祭にかけて、祭見物に訪れる人たちは約50万人とも。本格的な冬を迎える前、唐津っ子たちが待ちわびる年1回の祭りであり、唐津最大の行事です。くんちとは「供日(九日)」とも書き、収穫感謝の意が込められています。主に北部九州で用いられる言葉で、唐津のほか、長崎県の長崎くんちも盛大な祭りとして知られています。

「唐津くんちの曳山行事」は、1980年に国指定重要無形民俗文化財に指定

1番曳山の赤獅子から14番曳山の七宝丸まで、美しい曳山の数々は圧巻です

町人たちの敬神から奉納された
巨大な曳山が城下町を巡行する

唐津くんちが最高潮を迎えるのは、3日に行われる曳き子たちによる曳山の巡行と、お旅所への曳き込み、曳き出しです。唐津曳山取締会の前川修三さんと、内田松夫さんによると、唐津くんちの神幸祭が始まったのは1663年。城下町に暮らす商人の町として発展してきた唐津では、古くから唐津神社の秋祭が行われていました。
今の形になったのは1819年で、唐津神社への敬神から奉納された刀町の曳山、赤獅子に始まります。赤獅子は今に伝わる最も古い曳山です。以降、57年の間に、材木町や魚屋町、米屋町といった町ごとの大店を中心に計15台の曳山が奉納されていきました(1台は消失)。紙を貼り、その上に漆を塗って金銀装飾を施した曳山は絢爛豪華。各町が趣向を凝らして造り、米屋町の酒呑童子と源頼光の兜や、水主(かこ)町の鯱などと名付けられた曳山は、最大で高さ6.5m、重さは3tを超えます。造られて200年ほど経つ曳山も代々の人々の手で丁寧な修復が続けられ、鮮やかな色彩を保っています。多い曳山で400人ほどの男性が曳く姿は、見る人を圧倒する迫力に満ちています。

唐津曳山取締会広報の水主町本部取締の前川修三さん(左)、米屋町の内田松夫さん(右)

1819年に奉納された刀町の赤獅子、1824年に奉納された2番曳山の青獅子

くんちの2日間のみ振る舞われる
女性たちが作る家庭料理

一方、女性たちのくんちの舞台は、各家庭です。男たちが祭りに熱狂している頃、家を守る女性たちは、大皿に用意したくんち料理を振る舞います。日頃お世話になっている人々を招待して各家庭の料理でもてなすしきたりで、他の地域では見られない珍しい風習です。3日から4日にかけて親戚や上客、取引先の人たちを招き、その数は多い家庭で300人前にもなるとのこと。女性たちは親戚にも手伝ってもらい、数日前から寝ずに準備をするそうです。前川さんも内田さんも、「だから、奥さんには頭が上がらないんですよ」と苦笑いします。 料理に決まりはないものの、第二次世界大戦後に登場したのが、大店の〝見栄〟から生まれた1m近い巨大な魚のアラの姿煮です。玄界灘で獲れるアラは高級魚。その腹に大根やゆで卵を詰め、醤油、日本酒、砂糖を使い、1日かけて丁寧に煮込んでいきます。招待された側は、酒などをお礼とし、長居をせずに引き上げるのが礼儀ともされます。また、この振る舞いは取引先の人や知人などに限られているため、招待されるためには唐津に知人を作ることだと前川さん、内田さんは口を揃えます。

大皿に盛られたアラの姿煮。このためだけに特注した大鍋を用意して煮込みます

アラの大きさと料理の見栄えで
商人たちの〝見栄〟を見せる

日本旅館洋々閣五代目の大河内正康さんは、大河内家のもてなしとして、3日、4日に宿泊客に30kg近くのアラを煮込み、大広間に並べて振る舞うとのこと。「私たちの旅館でもアラの姿煮は、祭りの期間に作る特別な料理です。できるだけ大きなアラを手に入れられるよう前もって手配し、少しずつ出汁をかけながら型が崩れないよう煮込みます。3日に半身がなくなると、出汁で煮た大根を魚の鱗に見立てて飾ります。おもてなしの気持ちを、くんち料理のアラの大きさと見栄えで見せるのが、唐津の商人たちの〝見栄〟が生んだ食の文化と言えるかもしれません」。

洋々閣の大広間並ぶくんち料理

洋々閣五代目の大河内正康さん。「唐津の町はくんちを中心に動きます。各家庭の料理でもてなすのが基本ですが、女性は大変だと思います」

洋々閣にアラの姿煮が用意されるのはくんちの2日間のみですが、10月〜2月にはアラ料理を味わえます

 

取材協力、写真提供/一般社団法人唐津観光協会、唐津曳山取締会
日本旅館 洋々閣
佐賀県唐津市東唐津2-4-40/TEL.0955-72-7181
http://www.yoyokaku.com

INFORMATION

唐津くんちの熱気に触れられる施設

唐津市民会館 曳山展示場

唐津くんちで巡行される14台の曳山を一堂に展示。各町の曳山の名称や造られた年代など、曳山ごとに丁寧な説明が添えられています。3日間にわたる祭りの様子も動画で見ることができます。

佐賀県唐津市西城内6-33
TEL.0955-73-4361
観覧時間.9:00〜17:00
休.12月29日〜31日、12月第1火曜とその翌日